マオリ映画 2 : 喜怒哀楽編『JAMES AND ISEY』『WARU』『COUNSINS』

Kia ora

ニュージーランドのマオリ族を紹介する映画特集第二弾です。

前回のマオリ族のソウルムービー『クジラの島の少女 : Whale Rider』に続いて、今回はマオリ人の人生の喜怒哀楽を描いた名作、『 JAMES AND ISEY ( ジェイムズ・アンド・アイジィー』『WARU (ワル )』『COUSINS』の三作品を紹介します。

現代社会においてのマオリ人としてのアイデンティティーに興味がある方にお薦めの映画です。

『 JAMES AND ISEY 』

 

今回マオリ映画の人生の喜怒哀楽を語る編としてもっともお薦めするのがこの 『 JAMES AND ISEY ( ジェイムズ・アンド・アイジィー』というドキュメンタリー映画です。

◆ あらすじ
ジェイムズとアイジィーの親子はマオリ語で Manu (鳥)をシンボルとするマオリの Ngāti Manu 続の子孫。二人はNORTHLAND 地方のKawakawaという田舎に住み、ジェイムズはかれこれ20年近くアイジィーの面倒を見ている。アイジィーはもうすぐ100歳の誕生日を迎えるに当たり、ジェイムズのマオリ人としてのスピリチュアルな精神を絡めながら二人のユニークな親子関係を追う。

◆ 感想
とにかく面白いの一言に尽きます。まず、100歳を迎えるというアイジィーがとてもチャーミングで、おばあちゃんというよりも、可愛い100歳になる女の子という表現がぴったり。そしてその息子のジェイムズの純真な性格と人間愛も相まって、作品としてもチャーミングに仕上がっています。
二人のように自然に即し素朴に生きながら、人生を謳歌できたらと誰しも思うマオリ語でいう Mauri ora ( 人生のエッセンス )がぎっしり詰まっており、ジェイムズが吹き込むマオリの精霊論も見事に生かされています。特に、100歳の盛大な誕生日会が済んだ直後に、マオリ語で*「霊が飛び降りる場所の意味する Cape Reingaで、母親を100歳まで生かしたという感謝気持ちを込めてカラキア(マオリの祈り)を行う様子は感慨深いものがあります。
二人の会話と黙示的な場面がバランス良く展開され、人生に対するマオリ族の概念を明るく楽しめます。

 
◆ 映画概要
ジャンル : ドキュメンタリー/言語: 英語/
製作: 2021年/上映時間 :1時間31分
監督 : Florian Habicht
出演 : James and Isey cross
 
 

『WARU』

 

次は、『WARU (ワル )』を紹介します。マオリ語で8を意味する『WARU (ワル )』は、8人のマオリ女性によって作られた10分間の短編映画がオムニバス形式で展開します。トロント映画祭など国際映画祭でも上映され注目を浴びました。

◆ あらすじ
Waru (ワル)という名前の幼い男の子が虐待死する。Waru (ワル) の葬式が準備されている朝9時59分に、ワルに関わる8人のマオリ女性の心情や生き様を描く。

・第一話 Charm (チャーム)
チャーム叔母さんが、*マラエで葬式用の食事を準備をする
・第二話 Anahera  (アナヘラ)
ワルの幼稚園の先生の若い女性アナヘラが、ワルを失った悲しみを埋めようとする
・第三話 Mihi (ミヒ)
シングル・マザーのミヒは子供たちへの食事やガソリンを買うお金が無く、憔悴する
・第四話 Em (イム)
騒々しい夜を過ごし酩酊したイムは、朝帰りした家で自身の赤ん坊が台所の床で泣いているのを目にする
・第五話 Ranui (ラヌイ)
ワルの 曾祖母の二人、ラヌイとヒンガがワルの霊を休めるためどこに遺体を埋めるかを巡り争う
・第六話 Kiritapu (キリタプ)
ニュース・キャスターのキリタプは、同僚のワルの虐待死事件の語り口に含まれた差別に反応   
・第七話 Mere (メレ)
ティーン・エイジャーのメレは、tokotoko ( トコトコ: マオリの長老が集まりの席で話すときに用いる杖。威厳を象徴) を持って、自身に対する虐待者に立ち向かう
・第八話 Titty & Bash  (ティティとバッシュ)
ティティとバッシュの二人の姉妹は、暴力的な家庭に置かれているバッシュの子供を取り戻そうとする

◆ 感想
『WARU』は、「ニュージーランドでは子供が虐待死する度にその子供の母親が責められ、そして世間ではマオリの問題として片づけられる。この問題に対するマオリの女性自身の声を社会に知ってもらいたい」との思いから二人の女性監督によって製作されました。そして、それぞれの話は、一台のカメラでそして一日の中で撮影されています。それ故に、映画全体に緊張感ありサスペンス・ミステリー調で心に迫ってきます。子供の虐待死にはその子供の親だけでなくいろいろな要素が含まれており、また解釈の仕方は人それぞれであることを正直に、そして理知的に表現した稀な作品です。また、子役にいたるまですべての役者の演技には目を見張るものがあります。
私個人としては、マラエで亡くなった人の魂は生まれた先祖の地に帰ることを表現した第五話の Ranui (ラヌイ)が強く印象に残りました。

◆ 映画概要
ジャンル : ドラマ/言語: 英語
製作: 2017年/上映時間 :1時間26分
製作者 : Kiel McNaughton, Kerry Warkia
監督 :Chelsea Cohen, Ainsley Gardiner, Casey Kaa, Renae Maihi, Awanui Simich-Pene, Briar Grace Smith, Paula Whetu Jones, Katie Wolfe

 

『COUNSINS』

 

マオリ文化の人生の喜怒哀楽が伺える名画の三番目として挙げる『COUSINS (カズンズ)』は、ニュージーランドのマオリ族に関する近代史が伺える映画です。

◆ あらすじ
幼少時代を一緒に過ごした三人の従妹 Mata(マタ), Missy (ミッシィ) Makareta (マカレタ)。が、Makareta (マカレタ)は従妹から引き離され、孤独と不安に苛まれた人生を送る。失ったマカレタを探すマカレタ、そしてマカレタの代わりに部族を守るミッシィ。三人のマオリの従妹としての絆を綴る。

◆感想
『COUSINS』は、ニュージーランドのマオリ文学の第一人者であるPatricia Grace( パトリシア・グレイス)の1992年に書いた小説が原作です。原作では、第二次世界大戦直後になかば強制的に地方から街へ移動させられ、土地と文化の喪失によるマオリ族の心の翻弄と痛みが語られています。映画の中でも、マオリの女性の教育と文化継承、強制的なマオリ孤児白人社会への養子縁組、そして差別などのシーンが盛り込まれていますが微妙なタッチで描かれ、またウェリントン北部の海岸にある美しい風景と相まって、ノスタルジックで情緒的に仕上がっています。ひと昔前のマオリ族が直面した現実を知る映画としてお薦めします。

◆ 映画概要
ジャンル : ドラマ/言語: 英語/製作: 2020年/
上映時間 :1時間38分
監督 : Ainsley Gardiner, Briar Grace Smith
キャスト:Tanea Heke (マタ)、Rachel House (ミッシィ)、Briar Grace Smith(マカレタ)

あとがき

 

マオリ名作映画 の 人生の喜怒哀楽を描いた作品として『JAMES AND ISEY』『WARU』『COUNSINS』を紹介しました。この三作品は、近代史におけるマオリ族の苦悩を描いた稀な作品です。マオリ文化に興味のある方はご覧になることをお勧めします。

また、三番目に紹介した作品『COUNSINS』の原作者 Patricia Grace( パトリシア・グレイス) は、ニュージーランドで第二次世界大戦を生き延びた日本人を主人公にした小説『CHAPPY』を書いています。『CHAPPY』では主人公の日本人とマオリ人の交流が見事に描かれています。ご興味のある方はどうぞこちらもご覧ください。

 

マオリ映画特集の第三弾ではTaika Waititi (  タイカ・ワイティティ ) 監督の出世作『BOY』と『Hunt for the Wilderpeople』と、それからワイティティ自身のプロフィールを紹介しています。

 

文中に出てきた、マオリ語の地名や、カラキア、マラエについての詳細はこちらを。

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ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。