ニュージーランド政府は一部の教科書からマオリ語を削除すると決定しました。
幼児向け教科書の変更は、学者、作家、教師から「マオリのアイデンティティへの攻撃」だと猛烈に批判されています。
何故政府は批判を浴びながらもこのような判断に踏み切ったのでしょうか?
はじめに
Kia ora
ニュージーランドのエリカ・スタンフォード教育省大臣はこのほど、カリキュラム刷新により、5歳児向けの教科書の一部からマオリ語を削除し、また幼児向けの人気書籍もマオリ語が多すぎるという理由で再版を見送る決定をしたと発表しました。
この変更について、学者、教師、作家らは「マオリのアイデンティティへの攻撃」であり、先住民族の言語よりも英語を優先しようとする連立政権の取り組みの新たな一手だと非難しています。
エリカ・スタンフォード教育大臣はこれらの批判を強く否定していますが、変革の内容やこれまでの成り行きなどを詳しく説明していきます。
変更点
去年エリカ・スタンフォード教育大臣は、子供たちが音と*フォニックスを用いて単語を理解することを目指した読み方を教える「構造化されたリテラシー・アプローチ」を導入すると発表していました。
その一環として、今月初め発表された具体的な変更点は
- 5歳児向けの教科書の一部から登場人物の名前を除くマオリ語を削除する
- マオリの集会所を訪れる様子を子どもたちに教える昔からの幼児向け絵本『At the Marae』の持ち帰り用小型版を再版しない
というものでした。
*フォニックスとは、英語の綴りと発音の関係性を学ぶ学習法で、英語の読み書きのルールを理解し、知らない単語でも 発音を推測したり、聞いた音からスペルを書き取ったりできるようになります。
変更した理由
エリカ・スタンフォード教育省大臣は上記の変更点の背景として次のような理由を挙げています。
- 教育省の報告書によると、英語のテキストにマオリ語を組み込むことで、英語の読み書きを学習している子どもたちに混乱を招く可能性がある
- マオリ語の学校や教師は、子どもたちが音と文字の読み方を練習するためのマオリ語の初期のテキストに英語は含めたくないと主張している。同様に英語版の書籍では「一貫して一つの言語のみを使用する
- 『At the Marae』にはmarae、karanga、wharenui、koro、hongi、karakiaという6つのマオリ語が含まれており、現在学校で義務付けられている体系的な識字モデルにそぐわない。教師が授業で読み上げられるよう原寸大で印刷されるべき、持ち帰り用の小型版は印刷しない

尚、スタンフォード教育省大臣は政府はマオリ語の書籍への投資に「真剣に取り組んできた」と述べ、「言語の復興は非常に重要だ」と強調しています。
反対意見
教育関係者の声
学校長や、学者、作家などの学識者らは、この決定が先住民族の言語の地位と、子どもたちが英語とマオリ語の両方を学ぶ能力を損なうものだとして、一同に批判しています。
- 5歳児向けに書かれた『At the Marae』の廃止について、より広範な「ベスト・スタート・リテラシー・プログラム」を開発した識字研究者たちは、こどもたちがこの教材を分かりにくいと感じたという証拠は全くなく、むしろその逆を示している
- 教師の中にはこの決定を「私たちの子供たち、教師、そして国家に対する侮辱」と呼び、マオリ族が教育制度の中で長年感じてきた疎外感を深める恐れがあると警告
マオリ識字学者の声
また、ウェリントン・ヴィクトリア大学マオリ研究科(Te Kawa a Māui)の准教授、アワヌイ・テ・フイア博士や、マオリ校長協会Te Akatea(テ・アカテア)らは、マスコミのインタビューの中で次のように激しい非難を浴びせています。
- 文化的アイデンティティの観点から有害であるだけでなく、子どもたちがこれらのごく少数の簡単な単語を理解できるという信頼をほとんど失わせるものである。
- マオリの子どもたちは、長い待機リストのためにマオリ語イマージョン・プリスクールや学校に通うことが難しく、その結果、ほとんどの子どもたちが一般教育を受けている。子どもたちが言語に触れ、自らの成長を目の当たりにする機会はごくわずかであるにも関わらず、根拠に基づいていないアドバイスによって、その機会はさらに奪われている。
- マオリの専門家は英語をテキストに取り入れることを望んでいないため、英語のテキストではマオリ語の使用を制限すべきだという大臣の主張は、二つの言語の地位を誤って同等視している。「マオリ語に触れる機会が非常に限られている中で、主要言語である英語がどの程度使われるかについて、何らかの制限を設ける必要がある。」
- 『At the Marae』のような書籍は、英語で授業を受ける学校に通うマオリの子供たちの97%、そして多くの非マオリの子供たちにマオリ語を知らしめている。その『At the Marae』の縮小版を再版しないという決定は、マオリ言語への直接的な攻撃であり、マオリ文化の否定であり、マオリとしてのアイデンティティへの攻撃である。
- 人種差別、文化抑圧であり、マオリの教育制度を再植民地化しようとする意図的な試みである

一般社会と政府論
批判しているのはマオリ識字や教育関係者だけではありません。
一般社会論の中でも、現在の政府に対して非難の声が上がっています。
一般社会からの非難
- 現在の政権発足以来、連立政権は公務におけるマオリ語の使用を最小限に抑え、マオリの健康と福祉の向上を目的とした政策の抜本的な撤回を進めてきた
- 先住民族言語復興における「世界的なリーダー」としての地位が、「政府の抵抗」のおかげで停滞。意図的に後退しているように感じ取られる
- 政府は「子どもの学習をめぐる文化戦争のような政治」を仕掛けている。ナショナル党は以前のジョン・キー首相の時のように穏健派有権者ではなく、より過激な連立政権パートナー、アクト党の側に立っている
- 国民党の中でも中道派でリベラル寄りの人物として広く知られ、将来の党首候補としても期待されているエリカ・スタンフォード教育大臣にとって、この論争は自滅的なものに映る
政府の主張
- この決定は証拠に基づき、すべての学校にマオリ語の解読可能な教科書一式を提供した。一部の評論家による、この決定は人種問題に関するものだという主張を断固として否定する
- 政府の多くの提案の根拠は、「人種に基づく」政策を終わらせることであり、連立政権はマオリとすべてのニュージーランド人の成果を向上させることに尽力している
(出典)
https://www.theguardian.com/world/2025/aug/20/maori-words-school-books-new-zealand
https://thespinoff.co.nz/the-bulletin/18-08-2025/six-maori-words-spark-a-debate-over-how-children-learn-to-read
あとがき
私の子供が幼いころは日本語の絵本ばかり読み聞かせていたので、子供が小学校に上がった最初の半年ほどは、読み書きや会話にも苦労していました。が、1年ほどで全く問題なくなりました。
並行して学校で習ったマオリ語も随分上達したものです。
ですので、私個人も今回の1年生の教科書からマオリ語を削除することに反対派の一人です。
そして現政権が今でも「人種に基づく政策を終わらせることであり、連立政権はマオリとすべてのニュージーランド人の成果を向上させることに尽力している」と言っていることに、失望しているというよにあきれてしまっています。
ここ数年、『平等はある人々には公平ではない』とあちこちで唱えられていますが、それを無視して平等論を訴えてくるとは、まさに人権を無視した人種差別だと言えると思います。
このブログを読んでいただいている方も理解していただければ幸いです。
Ngā mihi
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