Kia ora
ニュージーランドでは、先日11月19日火曜日にマオリ族による 『Hīkoi mō Te Tiriti /( ワイタンギ条約のためのデモ行進』が行われました。
首都ウェリントンの国会議事堂を目指したこの反対デモ行進には、何と4万人の人々が集まりウェリントンの通りを埋め尽くしました。
このデモ行進は、去年発足した新内閣が発案した『Treaty Principles Bill ( ワイタンギ条約原理見直し法案)』に反対するもので、ニュージーランドの近代史上稀にみる出来事となりました。
これから、デモ行進とその発端となった『Treaty Principles Bill ( ワイタンギ条約原理見直し法案)』について詳しく紹介します。
この法案は、マオリ族だけでなく日本人にとっても他人事とは言えない内容です。是非最後までお読みください。
目次
1. はじめに
去年の末、右よりの党で構成される内閣が発表して以来、マオリに関するポリシーは国内外で注目を集めています。
その中でも特に Treaty Principles Bill と呼ばれる『ワイタンギ条約原理見直し法案』は、論争を巻き起こし緊張状態が続いていました。
この 『Treaty Principles Bill(ワイタンギ条約原理見直し法案』は、ACT党党首の David Seymour ( ディビッド・シーモア)が発案したもので、マオリ族の権利を保障するニュージーランドの国家基盤文書、ワイタンギ条約の解釈方法を変えることを目的としています。
この『ワイタンギ条約原理見直し法案』について、本来は11月19日に国会で第一次票決が行われる予定でしたが、予定より早まり14日に行われました。
そしてその第一次票決に合わせて行われる筈だった Hīkoi mō Te Tiriti ( ワイタンギ条約のためのデモ行進)は早い時期から全国的に計画されていたたため、11月19日に行われたという訳です。
4万人が集った Hīkoi mō Te Tiriti ( ワイタンギ条約のためのデモ行進)が如何に盛大だったかは、下の動画を観ればおわかりいただけるかと思います。
2. 『ワイタンギ条約原理見直し法案』国会の第一次票決で可決
11月14日、ニュージーランドの国会では『Treaty Principles Bill/ワイタンギ条約原理見直し法案』の first reading (第一次票決)が行われました。
結果は、予想通りに現在の連立内閣を組むナショナル党と、NZ First党、Act党の三党による賛成票で可決され次の段階に進むことになりました。
野党の労働党、グリーン党 そして Te Pāti Māori (マオリ党)は反対票を投じました。
第一次票決中に、マオリ党の議員が『Treaty Principles Bill/ワイタンギ条約原理見直し法案』の文書を破り、発起人のACT党党主の David Seymour ( ディビッド・シーモア)に対してマオリの伝統的な武闘ダンスのHAKA(ハカ)を演じ国会が一時中断。また労働党のマオリ議員がシーモア党首をなじるなどして強制的に退席させられるなど、波乱に富んだ票決となりました。
4. 『ワイタンギ条約原理見直し法案』とは?
このように大騒動となっている『Treaty Principles Bill/ワイタンギ条約原理見直し法案』 とは一体どんな法案なのかこれから詳しく紹介していきます。
繰り返しになりますが、『Treaty Principles Bill/ワイタンギ条約原理見直し法案』は, 去年連立内閣を組んだ ACT 党党首の David Seymour(デイビッド・シーモア) が提出した法案です。
シーモアACT党党首は、選挙キャンペーン中より、Crownと呼ばれる国家君主(イギリス王室)とマオリ族による共同統治 ではなく、君主だけで統治するべきであると主張していました。
そして、今年1月に連立内閣を組むナショナル党とNZ First 党の同意のもと『Treaty Principles Bill/ワイタンギ条約原理見直し法案』を発表し、批判を浴びるなど国中で論争が巻き起こっていました。
〇 背景
『Treaty Principles Bill/ワイタンギ条約原理見直し法案』について、発案者のシーモアアクト党党首は、記者会見の席で次のように述べています。
「国会は1975年にワイタンギ条約のコンセプトを導入したが明確な定義が記されておらず、司法やワイタンギ条約審査会所において、同等の権利というワイタンギ条約の原理とはまったく正反対の原理が正当化され増長し続けている。
公共サービスでの共同統治、公共機関における人種の割合規制や待遇などがそうである。
法案が可決されても、ワイタンギ条約の原理が無くなることはない。ワイタンギ条約の原理が正しく定義されるとともに、的確で透明なものになる。
そしてワイタンギ条約はニュージーランドの強い指針となり、ニュージーランド国民は平等の権利を持つことができる
〇 実際のところ
シーモアACT党党首の話をそのまま受けとると、『Treaty Principles Bill/ワイタンギ条約原理見直し法案』は国民全員が平等に扱われるのだから、良さそうに見えます。
が、実はそうではありません。
その主な理由として次のようなことが挙げられます。
● 平等の権利はマオリ族には不公平
平等(eqality )は個人の違いを視野に入れないで、すべての人に同じ条件を提供することを意味します。一方、公平(Equity)は、個人の違いを考慮して、目的を達成するために適切なものをそれぞれ与えることを意味します。
わかりやすく説明すると、高い位置にあるものを取ろうとする時、背の低い人は不利な立場にいる為、補助台に立つことで公平さが保たれます。
ゴルフ場でも上手な人にハンディキャップが課せられるのも、プレイの公平さを保つためです。
過去100年以上に渡って歴史的に虐げられた生活を強いられ、言葉や文化、それから自尊心まで失ったマオリ族は、そうでない人と同じ土台に立つには、先の例でいう補助台という底上げするサポートが必要です。
補助台が無ければ、いずれは西洋文化に飲み込まれマオリ文化は風化してしまいます。
現代社会において、外部からの影響でひとつの文化が無くなることはあってはなりません。
● ワイタンギ条約でマオリ族の権利は保障されている
ワイタンギ条約ではマオリ族の taonga ( 土地や慣習、文化)は保障されています。
ワイタンギ条約は、先住民族であるマオリ族の権利を保障し共存することで、大英帝国が植民化が成立しています。
● 反マオリ社会を増長し国を分断しかねない
マオリ族にとっては致命的な影響を与えるだけでなく、反マオリ社会が増長されます。
一方でマオリでないマオリ支持者も多く、マオリ支持者と反マオリ者の間で国が分断される恐れがあると言われています。
5. 今後どうなる?
これからこの法案は半年の間国会の諮問委員会にかけられた後、再度国会で二次票決が取られます。国会の諮問委員会で検討される際は、ニュージーランド国民の声が反映されることになっています。
現時点ではナショナル党党首でもある Christopher Luxon ( クリストファー・ラクソン) 首相とNZFirst 党は、二回目の票決では賛成票を投じないと表明しており、野党が賛成側に回らない限りは可決することはないと予想されています。
シーモアACT党党首は、連立内閣を組むナショナル党とNZFirst 党に民主主義に基づいたプロセスであるとし支持を求めていますが、現在のところ、第二次評決で可決されることはなく従って立憲にされない可能性が大です。
万が一この法案が可決されれば、ワイタンギ条約を終わらせたも同然で近代史において最大の条約違反行為になると言われています。
6. 日本人にも他人事でない訳とは?
『Treaty Principles Bill/ワイタンギ条約原理見直し法案』について、これまでマオリ族の観点から説明してきましたが、実は日本人にとっても影響する可能性があります。
それは、前に説明した平等 (equality ) と公平 ( equity )な扱いの違いに関係します。
とても極端なケースですが、こういうこともあり得るとの前提で分かり易い例を挙げてみました。
例1)
身に覚えのないことで訴えられ裁判沙汰になったとします。英語を話せない場合は裁判で通訳を介することで公正な立場に立つことができます。
が、原告と被告の立場の平等説を敷かれると、通訳という補助はありません。
例2)
子供連れでニュージーランドに移住したとします。
子供は学校で現地の生徒と違い、ESOLという特別クラスで英語習得する機会が与えられたり、学校によっては teacher aide と呼ばれる先生とは別の補助員からサポートを受けることができます。
が、平等説の元では、他の生徒と平等なため特別な扱いを受けることができません。
7. あとがき
このブログを読んで、少しでも今回の法案について事の重大さを理解してもらえればありがたいと思います。
経済効果と引き換えに平等説が振りかざされば、弱者だけでなくとも誰しもがとても住みずらい社会になることは確かです。
次の総選挙は2025年11月に予定されています。
現在ニュージーランドに住んでいる方、それからこれから移住される方には、経済という目先の利益だけでなく社会性を考えて次回の総選挙に臨まれることを願います。
最後に、ワイタンギ条約や現在の内閣の詳細についてはこちらを特集をご覧ください。
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