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2023年の総選挙の結果、三党連立内閣が決まったニュージーランド政府。
それから40日後にようやく新内閣が発表されたと思いきや、組閣の焦点であった副首相の座以上に、新内閣が発表した新政策がこれまた衝撃的で、国内のみならず海外にも波紋を呼んでいます。
この編ではニュージーランドの新内閣とその衝撃の政策について詳しく紹介します。
目次
1.新しい内閣
1.1 副首相は交代で!
m2023年総選挙の最終投票結果が公表され、*三党の連立政権が決定したのは投票日から実に3週間を経った後でした。
それからさらにまた40日の間、連立するNational (国民党)とAct, NZFirst の3党の間で交渉と調整がなされ、ようやく代54期新政府の首相、副首相、大臣など閣僚が決定しました。
* 2023年の総選挙結果と三党連立政権についてはこちらをご覧ください
首相は勿論選挙で最も多く議席を得た
National (国民党)のChristopher Luxon ( クリストファー・ラクソン)
そして副首相は 連立政権を取る2党の内、議席を多く得たACT 党首のDavis Seymour(ディビッド・シーモア)か、それもと議席が少ないながらも King Makerの異名を持つNZFirst党首のWinston Peters( ウィンストン・ピーターズ)になるか注目が集まる中、なんとこの二人が半期づつ交代で就任することが発表されました。
繰り返しになりますが、簡単にまとめると、
首相
National クリストファー・ラクソン
副首相
前期 (2023年11月~2025年5月)
NZFirst党 ウィンストン・ピーターズ
後期 (2025年6月~2026年10月)
ACT 党 ディビッド・シーモア
となります。
副首相に二人が交代で就任するなんてニュージーランドでは前代未聞だそうですが、世界でもとても珍しいケースではないでしょうか。
下の集合写真は、その新首相を初めとする新内閣がニュージーランド総督に宣誓した直後に撮られたものです。
最前列の中央のピンク色のドレスを着ている女性は、現在のニュージーランド総督 Dame Cindy Kiro ( デイム シンディ・キロ)です。正面から見てキロ総督の左にクリストファー・ラクソン首相、その左横にディビッド・シーモア副首相。そして総督の右側にウィンストン・ピーターズ副首相が座っています。

Appointment_of_the_new_Ministry_2023 via Wikimedia
* シンディ・キロNZ総督の詳細についてはこちらをどうぞ。
1.2 主要ポスト
勿論ニュージーランドの内閣は、首相や副首相だけでなく色々な大臣で構成されています。新内閣の主要ポストをみてみましょう。
National (国民党)
首相のクリストファー・ラクソンは、国家安全情報局、内閣運営局の大臣も兼ねており、ラクソンの片腕であるNicola Willis(二コラ・ウイルス)は予想されていた財務相の他、公益事業、環境問題の省を兼任、Chris Bishop(クリス・ビショップ ) は、住宅業相などのポジションに就いています。
Act党
Act党の党首ディビッド・シーモアが後半期2025年の6月より副首相を勤める他に、財務省と文部省の副大臣を勤めます。
NZFirst党
NZFirst党首のウィンストン・ピーターズは、2025年5月までの前期に副首相を勤めるほか、外務省などの大臣に就いています。
2.新政策
副首相に二人が交代で就任するだけでも十分に驚くに値する新内閣ですが、その新内閣から発表されたは政策は、さらに輪をかけたように衝撃的な内容でした。
政策は連立する3党の各々の方針を推し測りまとめられたと言われています。
2.1 マオリに関する衝撃的な新政策
その新しく発表された衝撃的な施策とは、
- 国立の各機関名をマオリ語から英語表記に変更
- ワイタンギ条約の司法における適用能力を制限
というものです。
ワイタンギ条約の見直しについては、もともとACT党のポリシーとして唄われていましたが、それにナショナル党も、NZFirst 党も同意しています。
更にACT党とNZFirst 党は次のように主張しています。
ACT党
「ワイタンギ条約の原理を見直す法案を作るための委員会をすぐさま結成、そしてリファレンダム/国民投票で国民に問う」
NZFirst党
「連立政権は過去にワイタンギ条約をもってイギリス王室が保証した内容を守る必要がある。が、ワイタンギ条約審査会の法令ついては、その適用範囲、目的そして性質などは設立当初のワイタンギ条約の原理に基づくべき改正すべきである。また、先住民族の権利に関する国連の宣言はニュージーランドでは法律上では保障されない」
2.2 波紋が広がる社会政策
衝撃的なマオリ族に関する政策以外だけでなく、社会政策についても波紋が広がっています。
その社会政策は、ナショナル党が導入したもので、
- 海洋環境保護を目的に制定されたNZ海域での石油や天然ガスの海洋掘削(かいようくっさく)の禁止令の見直し
- 将来の禁煙社会を目指し若者層へのタバコ販売禁止令の見直し
の2項目です。
自然環境と国民の健康を守るどちらも法令も、前政権の労働党の元で制定されています。
2.2 知っておくと便利な政策
その他にも新内閣によって発表された政策は沢山あります。
その中から知っておいた方がよいと思われる政策を取り上げて紹介します。
ナショナル党誘導の政策から
- 減税(2024年以降については不明)
- 公約の海外バイヤーの住宅購入の15%の課税案は実行しない(NZFirst 党の反対により)
- 公共機関の経費削減
- 学校で毎日読む、書く、算数の授業を各々最低1時間づつ行うことの徹底化
- 学校で携帯電話の使用禁止
- 大学の授業料の無料化を最初の1年目ではなく最終の学年に変更
- ギャングと若者の犯罪取り締まり強化
NZFirst党誘導の政策から
- 地方のインフラストラクチャー費用として、政府は12億NZドルを投入
- コロナウイルスへの、予防接種義務を完全に廃止
- 年金受給年齢は現在の65歳にすえおき

© Nick Bramhall via Flickr
3.反対意見、世論
上記の新政策は各界に波紋を呼び、野党や関係する機関から強い批判を受けています。
以下はそのほんの数例です。
野党のTe Pati Māori ( マオリ党) と、労働党のクリス・ヒプキンズ元首相らは
- これまで少しづつ培った改変を元に戻すことに焦点を当ており、「敵意的」で「後退的」
- ワイタンギ条約と*環境問題に関する法律を是正することは若い世代の人々の内閣不信を招き、いずれは政治離れに結び付く(海洋環境保護を目的としてNZ海域での石油や天然ガスの海洋掘削(かいようくっさく)の禁止令の見直しされることから)
- 国民を困惑させるとともに国家を分断する可能性がある
- *2025年までに禁煙社会を目指すことはナショナルの政権下で決定。その後労働党に受け継がれ法令が出された。推定8,000人の生命を救うことよりも、減税を補う収入源とする為、法令をくつがえして喫煙を助長するようなことは道徳的に許されない
と声明しています。
*2025年の喫煙社会を目指す法令の詳細はこちらをご覧ください。
また、日銀ならずニュージーランド銀行総裁は、マオリ語から英語への変更を拒否し、今後もマオリ語表記を続けると真っ向から対立しています。
他の機関からも、医療、福祉の向上に努める姿勢が全く感じられないと激しく非難されている他、海外の自然環境保護団体からも非難の声が上がっています。
4. 首相、副首相紹介
4.1 首相 クリストファー・ラクソン
Christopher Mark Luxon 1970年にクリストチャーチでアイルランド/スコットランド/イギリスのカソリックの家系に生まれ、8歳の時にオークランドのHowickに移る。父親は Johnson & Johnson 社のセールス、母親はサイコセラピストであった。高校生の時にクライストチャーチに戻り、高校では弁論大会で優勝。学生時代は、マクドナルドやホテルのポーターとしてアルバイトをする。カンタベリー大学卒後、1993年からユニリーバ社に勤め2008年に同社のCEO( 最高経営責任者)となる。2012年から2019年まではニュージーランド航空の CEO ( 最高経営責任者)を歴任。従業員の賃金値上げを巡る労働組合との紛争や、当時の国民党の党首で首相のJohn Key ( ジョン・キー)のビジネス同胞者として名が知れるようになる。後に、ニュージーランド航空はアフリカ紛争を支援した事で弾劾され、過ちを認めた。2020年に国民党員としてオークランドのBotany 地区で議員に選ばれる。労働党の政権下、野党である国民党の、地方政治、研究、化学、製造、土地情報についての広報担当者となる。2021年、国民党内の改革後、党首に就任。
4.2 副首相 ウィンストン・ピーターズ
Winston Raymond Peters 1945年 Whangāreiにてマオリ族とスコットランドの家系に生まれる。1966年オークランドの教師養成学校を卒業後教鞭を取るが、すぐにオーストラリアに渡りトンネルを掘った。1970年にNZに戻りオークランド大学で法律と歴史を専攻。在学中はラグビー部のキャプテンを務め、またナショナル党の青年部に加入した。卒業後は4年間弁護士として働く。1978年ナショナル党の議員として初当選、マオリ省の役職に就くが党の施策を批判したことで解任されナショナル党を脱退。1993年大衆を代弁する目的で、NZFirst党を結成。1996年の総選挙では同じ議席数を獲得したナショナル党と労働党のどちらが政権を取るかは、連立政権を組むNZFirst次第となりピーターズはナショナル党を選ぶ代わり副首相の座を得、「Kingmaker」の異名を取る。2005年労働党政権下には外務大臣を務める。2008年の選挙で落選したが2011年にカムバック。2017年の総選挙では再びナショナルとジャシンダ・アダーン率いる労働党の議員数が同数となり、労働党を選ぶ。副首相と外務大臣を務め、またアダーン首相が育児休暇中には代行して首相の任務を果たした。2007年に既存のGold Card(60歳以上が保有する特別待遇カード)をアップグレードしたSuper Gold Card を導入。数々のスキャンダルを起こし2005年には急増するアジア移民に対し、NZの価値観や標準にそぐわないとして反対し人種差別であると糾弾される。また、党への寄付金を申告しなかったことで調査を受けたことがある。
4.3 副首相 ディビッド・シーモア
David Breen Seymour 1983年 パーマストン・ノース生まれ。母親はマオリである。 オークランド大学でエンジニアリングと哲学を専攻し生徒会長を務める。在学中にACT党に入党。卒業後は5年間カナダで公共政策に関わる。2005年オークランドのMt Albert から出馬するが、当時首相であった労働党のHelen Clarkに議席を奪われ、2011年オークランドのセントラルから出馬するがまたしても敗退。が、閣僚のアドバイザーに就任。2014年オークランドの Epsomから出馬し議員となり、ACT党の党首に任命される。労働党政権下、教育関係、安楽死、アルコールの販売時間延長、LGBT、Uberに関する法令の制定に関わる。2017年唯一ACT党から再選。銃取り締まり法、二酸化炭素排出規制に関する法に反対するが、中絶認知には賛成の立場を取る。コロナ禍対策委員を務める。2020年の総選挙ではACT党よりシーモアを初め10人が選出。財政省とコロナ禍対策委員会などで大臣の役職に就く。2021年、コロナウィルスの予防接種の予約をマオリ人に優先、またマオリ省の廃止を提案したことから、マオリに対する差別だと批判された。
5 あとがき
この記事を書いている間に、すでに全国各地でマオリ族によるプロテストと言われる抗議行動が始まりました。マオリ党の主導で今のところ抗議運動は平和に行われていますが、将来過激にならないとは言えません。
加えてマオリ族だけでなく、別の団体も環境問題について抗議行動を行う可能性は十分にあります。それもグリーンピースなどの個別団体ではなく、若い層の一般市民それから子供もこうした抗議運動に参加することが予測れます。
何故なら現在のニュージーランドの若い層は子供の頃から環境問題や人権問題についての教育を受け世情にとても敏感だからです。
そして彼らの政治離れは目に見えています。
こうしてニュージーランド国家は次第に分断されていくのでしょうか。。。
とても残念です。
Ngā mihi
wonderer