kia ora
ニュージーランドのジャシンダ・アダーン首相の特集です。
第2回目となるこの編では、首相就任後の経緯を紹介しながら、彼女の人気の理由を探っていきます。
早速ですが、アダーン首相は先月ドイツのViewという雑誌で、“ the best politician in the world ” として紹介されました。
同雑誌はアダーン首相について9ページにも及ぶ特集を組み、その中で主にアメリカ合衆国のトランプ前政権と比較しながら、首相のコロナウイルス対策に焦点を当てながら紹介しています。
その一例に、行動規制を敷く国が多い中、ニュージーランドではオール・ブラックスの試合に何千人もの観客がスタジアムで観戦したなど、平常が保てられていることを挙げています。
更に同誌は、「2017年にアダーン首相が就任した事は、世界の政治界に一筋の光をもたらした」「アダーン首相は一般にありがちな政治家ではなく、西欧圏の国々はニュージーランドを羨ましく思っている」とまで褒め称えています。
Danke❤️
German magazine names Jacinda Ardern ‘the best politician in the world’ https://t.co/Sc0WLzMwQp pic.twitter.com/UWd94nntTn
— WicMar (@WicMar) January 21, 2021
アダーン首相が世界の雑誌で取り上げられたのは今回が初めてではありません。
去年二月にはタイム誌の表紙を飾り、5月には同誌でコロナ対策のリーダーシップが絶賛されています。
( 出典: https://i.stuff.co.nz/national/politics/124013117/german-magazine-names-jacinda-ardern-the-best-politician-in-the-world )
このように海外から高い評価を得ているアーダーン首相が行った政策やエピソードを、分かりやすいようにこれから具体的に説明していきます。
アダーン首相就任となるまでの経緯は、別の編で取り上げています。
併せてご覧下さい。
首相就任後の経緯
政権1期目
2017年
8月 首相となる。当時37歳、世界で史上最年少の女性の首相である。
2018年
1月 自身が妊娠していることを発表。

Sir Hec Busby and The Rt Hon Jacinda Ardern ©︎ New Zealand Government, Office of the Governor-General
2月 ワイタンギ条約の日、地元のマオリ族の大歓迎を受け、ワイタンギに5日間滞在する。首相として異例のことである。また、女性の首相として初めてマラエで声明を出す。
( * ワイタンギ条約についてはこちらを)
4月 ロンドンで行われた英連邦首脳会議 ( Commonwealth Heads of Government Meeting 2018 )に出席。
エリザベス女王主催の公式晩餐会で祝杯を挙げスピーチを行う。マオリの伝統的なkorowai ( コロワイ:外套着)をまとった身重のアダーン首相は世界の注目を浴びる。
6月 長女を出産、半年間育児休暇を取る。
国の長として世界で二番目の事例である。
7月 アダーン政権にとって最も重要な施策であるファミリーパッケージを発表する。
ファミリー・パッケージには2019年までに*有給育児休暇を26週間に延長、低所得者層に対して育児援助金として週$60を支払う事などが盛り込まれている。
( * 有給育児制度のついてはこちらを )
同時に学校給食と医療費の無料化、援助金の増額、学校での生理用品の無料配布、老人や低所得者向けの住居提供を計画する条項を発表する。
更にナショナル党率いる前政権が予定していた減税をやめ、代わりに医療と教育の予算を増やし、大学の一年目の授業料の無料化し、後に教師の給与の引き上げに同意した。
また、徐々に最低賃金の引き上げを行った。
9月 乳児連れで国連総会に出席。国連史上の初めての出来事である。アダーン首相が会議で多国間協調、青少年の育成、環境問題、男女平等、思いやりに基づいたアクションを提唱するスピーチをしている間に、生後三か月の娘が隣でパートナーの膝上に抱かれている模様が世界中のメディアで流れる。
アダーンのパートナーであるクラーク・ゲイフォードは、「 国連会議の途中、別室で娘のおむつを替えている途中、日本人一団が入室し仰天していた。ビデオでその模様を撮っておくべきだったと 」とツィートした。
Jacinda Ardern makes history with baby Neve at UN general assembly https://t.co/nvwVz6aaDZ
— The Guardian (@guardian) September 24, 2018
2019年
3月1日クライストチャーチのモスク襲撃事件が起こり、51人死亡。49人が負傷を追う。国を挙げて喪に服する。アダーン首相はすぐに記者会見を行い、被害者やその家族に追悼の意を表し、またこの襲撃事件は過激主義者によるテロリズムであると声明文を発表する。同時に過激主義はNZにおいても世界においても存在するべきではないと訴える。
翌日クライストチャーチに出向きイスラム教徒に直接会いニュージーランド全体がこの事件に心を痛めていると話す。
hijabと呼ばれるスカーフを頭に巻き黒い服を着た首相が、被害者の家族やイスラムコミュニティの人々に話しかけている姿が世界中で報道され、世界各地から賞賛を浴びる。

©︎ Kirk Hargreaves
後に、首相は実行犯の名前を絶対に口にしないことを断言。実行犯ではなく、被害者の名前を挙げることを断言した。
4月 襲撃事件の僅か一か月後と異例の速さで、銃の保有を規制する法律を制定し、個人所有の銃の政府買い取りプログラムを発表する。
2020年
2月 オーストラリアは、オーストラリア市民権を持たない在住ニュージーランド人を強制送還することを発表。これに対し両国の関係を損ねることになりかねないと強く反対する。
3月 ニュージーランドでコロナウイルスの感染者が出た事を受けて、3月15日より入国者に対し2週間の隔離を要請、続いて19日よりはNZ市民と永住者以外の入国を禁止する。25日には警戒レベル4まで引き上げ、完全ロックダウンに入る事を宣言。
New Zealand raises alert level, announces nationwide lockdown starting Wednesday over coronavirus; all schools, non-essential businesses to close https://t.co/VAD83rtcNC
— Factal News (@factal) March 23, 2020
これに対し、国内・海外の各メディアがアダーン政府の素早い反応とリーダーシップを褒め称える。
ワシントン・ポストはアダーン首相が頻繁に記者会見を行い、ソーシャル・メディアを上手に使って国民に直接呼び掛けを行った事に対し、危機管理時のコミュニケーション能力をマスター・クラスと評価した。
政権2期目
2020年
10月 国民総選挙で地すべり的な勝利を収め、首相として2期目の政権が始まる。
12月 地球温暖化非常宣言を発表。2025年までにカーボン・ニュートラルにする公約を出す。
2021年
1月 早くとも国民が予防接種を受ける半年後までは、NZ市民以外の入国拒否を継続すると発表。
2月 NZとオーストリアの市民権を持ち2014年シリアでISIS(イスラム過激組織) と結婚した女性が二人の子供とトルコに入国し逮捕された事に対し、オーストリア政府はその女性のオーストリア市民権を剥奪。アダーン首相は激しく抗議し二人の子供を救う手立てを立てる声明文を出す。
学校で生理用品が無料配布される。
一部の学校では、無料給食の試みが始まる。
あとがき
これまでアダーン首相と、彼女が率いる政権の特徴がよく現れていると思われる事象を紹介しました。
もうお分かりかと思いますが、アダーン首相のモットーは人道主義の一言に尽きます。この人道主義に基づいた政策、そして彼女の人懐っこい人柄がNZ国民の共感を呼び、そして信頼を得ている理由です。

なおかつ、モスク襲撃事件やコロナウィルスに対して迅速で適切な対応が取られ、素晴らしい行動力も証明されています。
長い間子供が学校に通えないなどの状況に陥っている国が多い中、ニュージーランドで平常生活が保たれているのは、まさしくアダーン政府のおかげだと言っても過言ではありません。
それと同時に、アダーン政府を信じ国民が完全ロックダウンを遂行したなど、国としての統一力にも目を見張るものがあります。
実際アダーン政府はロックダウン後、世論調査で史上最高の60%の支持率を得ています。
ニュージーランドにも地価高騰、住居数不足、旅行業界の危惧、経済低迷など問題がありますが、アダーン首相には今後も国民と一体になって上手く難題をクリアし、より良い国作りをして頂きたいと願う国民が多いということなのでしょう。
Ngā mihi
wonderer
追記:首相引退後、大英勲章叙勲の特集を組んでいます。こちらも併せてご覧ください。
