Tēnā Koutou Katoa
8月15日の終戦記念日を迎えるにあたって、ここで第二次世界大戦中のニュージーランドを生き延びた日本人を題材にした小説を紹介したいと思います。
「 CHAPPY 」という題名で、マオリ文学の第一人者、Patricia Grace 女史によるフィクションの物語です。
せっかくだから ニュージーランドの小説を読みたいという方にもこの「 CHAPPY 」はお薦めの一冊です。
数年前に、NZ国内最高峰と言われるOCKHAM 文学賞の最終選考に残ったほどの優れた小説ですが、いたってシンプルな文体で書かれておりいたってわかりやすい内容です。
「 CHAPPY 」あらすじ
この小説では、イギリスに住む若者がニュージーランドに渡航し自分のルーツ探しを始めます。そして誰も語らなかった祖父の謎解き明かされていきます。
この謎に包まれた祖父というのが、実は戦中日本社会からの脱落し、何とかニュージーランドに密航した後にマオリ族の集落に暮らし、第二次世界大戦を生き延びた CHAPPY という名の日本人男性になります。
密航先のニュージーランドで餓死寸前の一歩手前だった Chappy は、運よくマオリの船員に助けられ、ウエリントン北部に位置するマオリ部族の集落で暮らし始めます。初めは、マオリ語も英語も話さず、どこの山や川から来ているのか分からない得たいの知れない外部の者として、集落に受け入れらなかった Chappy でしたが、日本の竹細工の手法を用いて作る籠(かご)が人々に重宝され、次第にマオリ集落に受け入れられます。
この籠にまつわるくだりは、日本とマオリ文化という二つの異なる文化が交わる場面としてとても美しく描かれていて、私は何度も読み返したほどです。
その後、話は第二次世界大戦に進み、日本が真珠湾攻撃をしたニュースがニュージーランドにも届くと、Chappy の生活は一転してしまいます。マオリ家族に迷惑をかけたくないの一心で、こっそり身を隠し、孤独で辛い生活を強いられます。
戦地から遠く離れ、あまり影響を受けてないニュージーランドでも、日本人がこういう仕打ちにあったのかと想像するだけで、複雑な思いをされる方は多いかと思います。
作者 Patricia Grace ( パトリシア・グレイス )
この小説「 CHAPPY 」作者の Patricia Grace ( パトリシア・グレイス ) 女史は、ウエリントン在住のマオリ文学者で、これまで数々の小説や子供用の絵本を出版しています。
2008年に、ノーベル平和賞に次いで世界的に権威があるとされているNeustadt International Prize for Literature(ノイシュタット国際文学賞)を受賞し、このChappy ではニュージーランド国内の文学賞のフィクションの部で( Ockham New Zealand Book Awards for Fiction)最終選考まで残りました。
また執筆活動だけではなく、マオリのコニュニティー活動にも精力的に励んでおり、これまで英国女王陛下から数々の勲章を受けています。
2006 年にDame(大英勲章第1位および第2位を授与された女性に対する尊称)を与えられましたが、これは本人の意思で受諾されることはありませんでした。
主人公の「 CHAPPY 」のモデルは実在
幸運にも私は Grace 女史に会う機会に恵まれ、
「 CHAPPY 」について話を伺うことができました。
この小説を書くきっかけとなったのは、亡くなったご主人が存命中に、「第二次世界大戦中に日本人がいて、当時はマオリ人の間で話題になっていた。。。」と聞かされており、兼ねてから興味があったということでした。
そこで、早速「 CHAPPY 」のモデルとなるに人物を調べると「 Asajiro Noda 」という名の日本人が実際に存在していたことがわかりました。
波乱に満ちた人生を送ったAsajiro Noda については、こちらをご覧ください。
ちなみに「 CHAPPY 」は PENGUIN 社から出版されており、小売価格 NZ$ 38となっています。
最後に、作者のPatricia Graceが1992年に書いた小説『COUSINS』は映画されています。興味のある方はこちらもどうぞ。
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