マオリ名作映画パート1 : マオリ族のソウル・ムービー「クジラの島の少女 : Whale Rider」

Kia ora

ニュージーランドの映画と聞いて、どんな映画を思い浮かべますか?ほとんどの方が「指輪物語」や「ホビット」と答えることでしょうが、ピーター・ジャクソン監督によるこの二つの映画以外にも、数多くの珠玉の作品が作られています。

中でもマオリ人のタイカ・ワイティティ監督による「Boy 」「Hunting for wilder people 」などの映画が有名ですが、マオリ主題の映画として「クジラの島の少女 : Whale Rider」を抜きにしては語ることが出来ません。

「クジラの島の少女 : Whale Rider」は、2002年製作と古い映画ですが、マオリ文化が素朴に描かれているだけでなく、ストレートな展開と心温まる内容で、何度観ても楽しめます。ニュージーランドに興味がある方にはお薦めの映画です。

    映画情報

製作国:ニュージーランド
言語  : 英語(日本語吹き替えあり)
上映時間:102分
ジャンル:ドラマ
監督・脚本 : ニキ・カーロ
出演者 : ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、ラウィリ・パラテーン、ヴィッキー・ホートン、クリフ・カーティス
受賞 : 英国アカデミー賞 少年映画部門 作品賞、インディペンデント・スピリット賞 外国映画賞、サンダンス映画祭 ワールド・シネマ部門 観客賞など29部門。
( アカデミー賞 主演女優賞など58部門にノミネート)

    あらすじ

ニュージーランドの海辺の小さな村に住むマオリ部族は、祖先をハワイキ(マオリ族の故地。1,000年以上前にNZに移り住む前に住んでいたと言われる。南太平洋に位置する)からクジラに乗ってやってきた勇者パイケアとし、彼らはそのパイケアの子孫であると信じています。そしてこの伝説とともに、マオリ族の系譜と文化は代々男が務める族長の元で継承されています。

現在の族長コロの長男に双子の子供が生まれますが、難産で男の赤ん坊と母親が死亡、女の子の赤ん坊だけが助かります。この女の子は伝説の勇者と同じパイケアと名付けられ、落胆のあまり村を離れた父親に代わって、祖父母のもとで育てられます。

以来パイケアの祖父コロは、パイケアを純粋に孫として愛する一方、集落の族長として、後継者となるはずの男の子ではなく女の子が生き残った事実に苦悩する日々を送ります。

そんなコロは、族長の後継者の育成を兼ねて村の男の子らにマオリの伝統文化を教える為、*マラエ(マオリの集会所、精神的な拠り所)で、学校を開きます。

女の子ゆえに入学を許されてないパイケアは、伝統的な歌や踊り、武器の使い方など祖父が男の子に伝授している技をこっそり盗み見し一人で練習します。
それを知った祖父は部族としての尊厳を破られと激怒すると同時に、思うように男の子の育成者が育たず落胆します。

ある日村の浜辺にセミクジラの大群が打ち上げられます。村人の必至な救助活動にも拘わらず浮上せず瀕死まじかのセミクジラに、コロは部族の未来を重ね喪心状態に陥ります。そしてパイケアは思いもかけない行動に出ます。

    感想

NZのどこにでもありそうなひなびた海辺の集落で、ひっそりと生きるマオリの人々の伝統文化を継承していく苦悩や葛藤が、素朴に表現されています。

シンプルでストレートな展開は、ややもすれば退屈になりがちですが、最後まで飽きがこないのは、パイケアを演じるケイシャ・キャッスル=ヒューズの素晴らしい名演技の賜物と言って良いでしょう。

観光地の文化体験村やテレビ報道で観る商業的に行われるものと違い、この映画で見る* ポフィリ ( pōwhiri : マオリの伝統的な歓迎式 ) は、驚くほどに質素です。ですが、逆にその簡素さが、現在も全国各地の各部族の間で慣例行事として行われているポフィリの現状がそのまま観る側に伝わってきます。

また、一見派手に見えるタイアハ ( 武器の一種)を使った武術も、この映画ではひなびた村で1人の老人が村の子供たちを集めて伝授されているなど、マオリ人以外にとっては普段見ることができない貴重なシーンです。


よく西欧人はマオリ文化をスピリチュアルと表現します。
その理由の一つに、マオリ人は自然に回帰し、自然と密接に繋がった慣習を持つ事が挙げられます。
近代化が進み文明が発展するにつれ、西欧社会ではそうしたマオリ人と自然との関係が注目されるようになりました。マオリ族の伝統や自然との関わりを描いた「クジラの島の少女 : Whale Rider」に世界中が魅せられたのは、その一つの例だと言えるでしょう。

「となりのトトロ」「もののけ姫」など、森林や動物と人間の関係を描いた映画になじみがある日本人にとっては、この「クジラの島の少女 : Whale Rider」は、懐かしい気持ちになること請け合いです。
★★★★★

    監督・脚本

監督・脚本 : ニキ・カーロ ( Nikola Jean Caro ) 

1966年 NZのウエリントン生まれ。 オークランド大学出身。映画監督、脚本家、映画プロデューサー。彫刻家になるつもりであったが、フィルム製作に目覚め、オーストラリアで映画製作を学ぶ。

デビュー作品は日本人夫婦が主演の「Memory & Desire」。NZ観光局とタイアップし日本人観光客と投資家を招く目的で製作された。興行成績は芳しくなかったが、1998年にカンヌ映画祭に選ばれるなど、映画批評家の評価を受ける。

この「クジラの島の少女 : Whale Rider」で世界に名が知られることになる。その後初のハリウッド映画監督作品の「スタンドアップ」で、主演のシャーリーズ・セロンとともにアカデミー賞にノミネート。他に「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命 ( 原題:The Zookeeper’s Wife ) 」、「マクファーランド 栄光への疾走 ( 原題:McFarland, USA ) 」、ウォルトディズニーの映画「ムーラン」の実写版を監督。

   キャスト

  ●パイケア役 : ケイシャ・キャッスル=ヒューズ

Keisha Castle-Hughes。1990年オーストラリアに生まれる。母親がマオリ人で4歳の時にNZに移住。 オークランドで通っていた小学校でキャストクルーに発掘され、「クジラの島の少女」に抜擢。演技力が高く評価され、史上最年少のアカデミー主演女優賞にノミネートされるなど、注目を集めた。その後の出演作品に、「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐  (原題: Star Wars Episode III: Revenge of the Sith  」「マリア ( 原題:The Nativity Story )」、「ウォーキング・デッド シーズン5」「ゲーム・オブ・スローンズ シーズン5 」「アメリカン・ソルジャー (原題:Thank You for Your Service )」がある。
私生活では17歳の時に当時のボーイフレンドとの間に長女を出産。今年1月に再婚、6月に次女を出産し現在ロサンジェルスに住んでいる。

  ●コロ役 : ラウィリ・パラテネ

Rawiri Paratene。1953年NZの北島のホキアンガに生まれる。Peter David Broughtonの英語名を持つが、一般にはマオリ名で知られている。
1970年、マオリ族の人権や土地問題、言葉などの運動家から演劇に転向。2013年、マオリアートと映画への貢献に対し、勲章を授かる。
娘のMarama Davidsonは、グリーン党の副党首を務めている。

  ● 父親役:クリフ・カーティス

Clifford Vivian Devon Curtis。1968年、ロトルアに生まれる。幼いころよりマオリ武闘芸能を学び、のちにブレイクダンスに興じる。NZとスイスで演劇を学んだ後、NZの舞台劇で演じる。
1993年、カンヌ映画祭金賞やオスカーなど数々の賞を受賞したNZ映画「ピアノレッスン(邦題:The Piano ) 」で映画デビュー。2004年、NZの映画プロダクション会社 Whenua Film を設立。
タイカ・ワイティティ監督の「イーグル vs シャーク」「 Boy」などの映画を製作している。
2014年の「ザ・ダーク・ホース」ではチェスの名人である実在の主人公を演じ、国内外で高い評価を受ける。
ハリウッド映画「救命士 ( 原題 :Bringing Out the Dead )  」、「スリー・キングズ 」、「ブロウ 」、「アバター」「復活 ( 原題 :Risen )  」や、アメリカTVドラマ「ミッシング」、「フィアー・ザ・ウォーキング・デッド」など数多くの作品に出演。多国籍を演じる俳優として活躍している。
2009年結婚。三児の父である。

    あとがき

この「クジラの島の少女 : Whale Rider」は、マオリ族の慣例行事や伝統芸能が草の根ルーツ的に継承されている模様や、自然との密接な関わりが素朴に描写された、云わばマオリのソウル・ムービーです。

日本で公開当時は、ニュージーランド版「風の谷のナウシカ」と触れ込みで宣伝されていました。ずばり的をついた表現ですよね。

最後に、文中に出てきたマラエとポフィリについて、詳しく知りたい人はこちらをご覧ください。

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1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。