マオリ映画③ : NZが誇るタイカ・ワイティティ監督と出世作『 BOY 』『Hunt for the Wilderpeople』紹介

Kia Ora

マオリ映画特集の第三弾の今回は、マオリ族監督Taika Waititi (  タイカ・ワイティティ ) の作品を紹介します。
や飛ぶ鳥を落とす勢いの形容がぴったりのニュージーランドのマオリ人映画監督タイカ・ワイティティ は、TIME誌の2022年度の『THE 100 MOST INFLUENTIAL PEOPLE 』(世界で最も影響力のある100人)に選ばれたほど。

そのワイティティ監督の出世作である『BOY』と『Hunt for the Wilderpeople』を取り上げています。どちらも逆境にもめげず逞しく生きるマオリの少年をコメディタッチで生き生きと描き、ニュージーランドでは第ヒットとなりました。

勿論、監督のタイカ・ワイティティについても生い立ちや経歴など、詳しく紹介していきます。

『 BOY』

2010年公開の『BOY』はニュージーランド国内において興行収益第一位になるほど大ヒット。監督タイカ・ワイティティ の名がニュージーランドのお茶の間で話題となりました。

◆ あらすじ
ニュージーランド北島のベイ・オブ・プレンティ地方の片田舎で、祖母の元で弟のロッキーといとこと暮らす11歳の少年Boy。マイケル・ジャクソンを信奉し、不在の父親は深海のダイバー、戦争の英雄、それからマイケル・ジャクソンと血が繋がっているなどと夢想に耽ける。その父親が7年ぶりに家に戻り一緒に生活するようになり、否が応でも現実を見せつけられたBoyは、自分自身の可能性について考えるようになる。

◆ 感想
『BOY』はワイティティ自身が生まれ育った場所で撮影され、当時の1980年代がそのまま再現されています。ですがストーリー自体は自叙伝ではなく「事実と想像力、それにインスピレーションを得て作られた」そうです。ですが、本人自身がマイケル・ジャクソンを信奉していたのは最後の Poi E のダンスを観れば一目瞭然です。そしてマリファナの栽培やギャングの存在なども地域の特性として実際に存在していたのでしょう。不遇な人生にも必ず笑えるものがあって、そこから希望と可能性が導かれるという監督の思いが見事に表現された映画です。世界的に大ヒットし、アカデミー賞脚色賞を受賞した『ジョジョ・ラビット』の原点とも言えるでしょう。
また、Boyを演じ時の人となった子役のJames Rolleston ( ジェイムズ・ロールストン) は青年として『The Dark Horse / ダークホース』でも好演しています。お見逃しなく。

◆ 映画概要
ジャンル :コメディ・ドラマ /言語: 英語/
製作: 2012年/上映時間 :1時間28分
脚本・監督 :  タイカ・ワイティティ
出演 : ジェイムズ・ロールストン、 タイカ・ワイティティ

『Hunt for the Wilderpeople』

『BOY』に続く2016年に公開の『Hunt for the Wilderpeople』もマオリ人の子どもが主役のコメディドラマ。子役のJulian Dennisonと叔父役のSam Neillの二人の演技は海外の批評家の注目の元となると共に、監督のワイティティ自身の名が世界的に知れ渡るようになりました。

◆ あらすじ
母親が育児放棄したため孤児となったリッキーは、児童福祉機関の斡旋で山あいに暮らす老夫婦の里子となる。最初は殻に閉じこもっていたリッキーだったが、一緒に狩りに出掛けたり、13歳の誕生日に子犬をプレゼントされ、次第に里親に打ち解けるようになる。が、里親の母親が急死し児童福祉施設に戻らないといけなくなったリッキーは、自殺を見せかけ森の中に逃げ、そこからリッキーといわくつきの里親の父親のHecとの奇妙な逃走劇が始まる。

◆ 感想
この『Hunt for the Wilderpeople』は、1986年に出版されたニュージーランドの作家 Barry Crump の人気小説『Wild Pork and Watercressが原作。
ワイルドに生きる男性の視点で書かれたこの小説はニュージーランド国内で百万部以上も印刷されたほどの人気で、当時少年だった ワイティティも大いに魅せられたことが想像出来ます。
ニュージーランドでは実際に森の中で生きる人は少なくはなく、この映画のように究極と行かなくても色々な曲者が住んでいることは事実です。
主役のリッキー役を演じたJulian Dennison (ジュリアン・デニソン) は強い個性を持った他の登場人物に全く引けをとらず、純粋な性格が溢れた見事な演技をしています。おかげで、息子がこういう風に育って欲しいと願う理想の男子として、イギリスのお茶の間の心をつかみました。
里親の父親で狂気じみたHec役を演じたハリウッド映画でお馴染みの Sam Neil ( サム・ニール) は、ニュージーランド人です。ジュリアン・デニソンとサム・ニールの駆引きはみごとの一言に尽きます。この映画が単なるハチャメチャ劇として終わらないのはこの二人の演技の賜物だと言えるでしょう。
『BOY』と同様、この映画でもワイティティ監督の「人間は未熟であるため心を痛め悩むが、それでも人生には笑える時があり、希望と可能性がある」という人生観がよく表されています。落ち込んでいる時に観て元気になる映画としてもお薦めです。

◆ 映画概要
ジャンル : コメディ・アドベンチャー/言語: 英語/
製作: 2016年/上映時間 :1時間41分
脚本・監督 :  タイカ・ワイティティ
出演 : ジュリアン・デニソン、サム・ニール

Taika Waititi ( タイカ・ワイティティ) 監督

タイカ・ワイティティタイカ・デイヴィッド・コーエン
Taika David Cohen映画監督、テレビディレクター、脚本家、俳優、コメディアン。

© Gage Skidmore vis Flickr

▼生い立ち
1975年8月 タイカ・デイヴィッド・コーエンとしてニュージーランド北島のベイ・オブ・プレンティに生まれる。父親はマオリのアーティストで母親はユダヤ系の学校教師。
ウェリントンの高校に通学後、ビクトリア大学で演劇を専攻。1997年に芸術学士号を取得。学生時代よりコメディの舞台で活躍。
今年の8月にシンガーのリタ・オラと再婚。前妻との間に二人の子供がいる。

▼経歴
2005年
ショートコメディ映画を製作しアカデミー賞にノミネート。授賞式で名前を呼ばれたときに寝た振りをして話題に。

2007
監督第一作目の長編映画ロマンティック・コメディ映画『Eagle vs Shark』が、アメリカ合衆国で限定公開。

同年テレビ番組『フライト・オブ・ザ・コンコルズ』で脚本・監督を務める。
(フライト・オブ・ザ・コンコルズはコメディ・ミュージック・デュオで、米ビルボード・アルバム・チャート3位を記録。グラミー賞、アカデミー賞受賞)。
2010年
長編映画第2作目『BOY』はサンダンス映画祭で上映審査員大賞にノミネート。NZ国内の興行収益記録を塗り替える。

2014年
ホラー・コメディ映画『シェアハウス・ウィズ・バンパイア』をフライト・オブ・ザ・コンコルズのクレメントと共同脚本、監督、出演。テレビシリーズ版は、エミー賞にノミネート。

2016年
長編映画4作目の『Hunt for the Wilderpeople』がサンダンス映画祭で公開。『BOY』を凌ぐ興行収益となる。
ディズニー映画『モアナと伝説の海』の脚本するが、採用されず。


2017年
その年に最も活躍した人に与えられる New Zealander of the Year賞受賞

マーベル・スタジオの『マイティ・ソー バトルロイヤル』の監督に抜擢。ヒット作品となり各界から高い評価を得る。
2019年
ブラックコメディ映画『ジョジョ・ラビット』を監督、脚本、主演。アカデミー賞6部門にノミネートされ脚色賞受賞、
自らプロデュースしたサウンドトラックはグラミー賞を受賞。
テレビシリーズ『マンダロリアン』で「IG-11」の声を担当。”Redemption”エピソードを監督しエミー賞にノミネート。
2021年
『スーサイド・スクワッド』『フリーガイ』に出演し、好評を得る。FXドラマ『レザベーション・ドッグス』の脚本を共同執筆。

2022年
TIME誌の『THE 100 MOST INFLUENTIAL PEOPLE OF 2022』(世界で最も影響力のある100人)に選ばれる

アニメーション映画『ライトイヤー』に声の出演。『ソー:ラブ&サンダー』の脚本と監督を手掛ける
ダニエル・クレイグがリタ・オラの歌声に合わせて踊るウォッカのTVコマーシャル製作

▼今後の予定
『Next Goal Wins(原題)』が2023年公開予定。大友克洋の傑作漫画『AKIRA(原題)』の実写版、Netflixの『チャーリーとチョコレート工場続編』、『フラッシュ・ゴードンの実写版』、『アンカル』の製作が予定されている。

あとがき

『BOY』、『Hunt for the Wilderpeople』も内容が人生の酸いも甘いも噛分けたコメディで、何度観ても面白いと思える映画です。まだ観てない方はこの機会に是非ご鑑賞下さい。

とこりで、『BOY』で主演したJames Rolleston ( ジェイムズ・ロールストン )は、マオリ人特有のアクセントのある英語を使っています。
実際にニュージーランドではマオリ語訛りの英語で話す人は多いので、これからニュージーランドに来られる方は耳慣らしのために映画を見るのもいいでしょう。

それから、『Hunt for the Wilderpeople』で主演したJulian Dennison (ジュリアン・デニソン)は、ニュージーランド航空のTVコマーシャルでRonan Keating (ロナン・キーティング ) と一緒に夏バージョンのきよしこの夜を歌っています。
とてもニュージーランドらしい歌詞ですので、併せてご覧ください。

最後に、これまでマオリ映画特集として『クジラの島の少女 : Whale Rider』の他に、『 JAMES AND ISEY ( ジェイムズ・アンド・アイジィー』『WARU (ワル )』『COUSINS』を紹介しています。興味のある方はこちらもどうぞ。

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ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。