『関心領域 zone of interst』感想; 鳥肌がたつ程美しくて怖い★★★★★

Kia Ora

2024年アカデミー賞国際映画長編賞を受賞した『関心領域  Zone Of Interest 』 のレビューです。

『関心領域  Zone Of Interest 』は、人類の歴史上最大の負の出来事と言えるホロコーストを、従来とは違う角度から焦点を当てた、美しくそして恐怖心に駆られるコンテンポラリーな映画です。

日本でもいよいよ5月24日に公開されます。お見逃しなく。

 

2023年製作/105分/アメリカ・イギリス・ポーランド合作
原題:The Zone of Interest
原作 : マーティン・エイミス
監督/脚本:ジョナサン・グレイザー
出演:クリスティアン・フリーデル, サンドラ・ヒュラー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2024年5月24日
受賞歴:アカデミー賞国際映画長編賞、音響賞

ユダヤ人に対して残虐行為が行われたポーランドのアウシュビッツ強制収容所。壁を隔てた向かいでは、収容所所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)と、妻ヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)、そして彼らの子供たちが一見穏やかに、そして幸せそうな家族として日々を営む。

*アウシュヴィッツ : ナチス・ドイツが第二次世界大戦中に国家を挙げて推進した人種差別による絶滅政策(ホロコースト)および強制労働により、最大級の犠牲者を出した強制収容所である。収容者の90%がユダヤ人であった。
(出典:ウィキペディア)

ナチスによるユダヤ人ホロコーストが題材の映画と言えば、『シンドラーのリスト』や『ピアノ』それから『縞模様のパジャマの青年』などがありますが、この『関心領域 The Zone of Interest 』はそのどれよりも狂気に満ちていて、もっとも恐怖感を感じた映画だと言っていいかもしれません。

しかも『関心領域 The Zone of Interest 』にはユダヤ人に対する虐待行為は一切画面に出てきません。壁一つを隔てたアウシュビッツ収容所所長のルドルフ一家の一見理想的に見える家庭生活に焦点が当てられています。


ルドルフは良き夫、良い父親であり、妻のヘドウィグは自慢の庭で土いじりにいそしみ、時には5人の子供と近くの川で水遊びをしたりと、田舎ののんびりとした生活を楽しんでいます。

ですがこの家族は塀の向こう柄から発せられる銃声や悲鳴が聞きながら、そして煙突から始終出ている黒い煙を見ながら、平静を保っているのです。

ルドルフ所長は手記の中で「家族はアウシュビッツ収容所で何があっているのか全く知らず、自身は収容所で仕事をしている時には家族のことを思い、そして家では収容所の中のユダヤ人のことを思い胸が痛んだと」と残しているそうです。
終戦後のドイツ、オーストリアでは一般市民が「私は知らなかった」と言っているのと同じです。

対して『関心領域 The Zone of Interest 』は、実際は一般市民もユダヤ人に対しての行為を感ずいていたはず、ただ知らないふりをしていたのではないかと問いかけて来ます。

そして映画の核をつくべき問いかけは、インパクトのある音と画像で訴え掛けてきます。
心を揺さぶるような深い音をバックグラウンドに、真っ赤なズームアップされた時には、鳥肌が立つくらい、怖い思いをしました。

歴史的に深い意味を持つメッセージを美しい映像と音楽でコンテンポラリーな感覚で作られた、とても精度の高い映画だと思います。
評価は星五つ、★★★★★ です。

Jonathan Glazer 1965年ロンドンに生まれる。ノッティンガム・トレント大学を卒業後、多くのCMやミュージック・ビデオの演出を手がけ、1996年、ジャミロクワイの代表作品楽曲「ヴァーチャル・インサニティ」を監督し、MVT授賞式で4冠をなすなど高い評価を得る。2000年、長編『セクシー・ビースト』で映画監督としてデビュー、2004年のニコール・キッドマン主演の『記憶の棘』はヴェネツィア国際映画祭に出品。2013年、スカーレット・ヨハンソンが主演のSF映画『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』がヴェネツィア国際映画祭で上映され賛否両論を巻き起こしたが、ガーディアン紙上第1位、フランスの映画誌上で3位にランクインした。2023年製作の『関心領域』がカンヌ国際映画祭にてグランプリを、アカデミー賞では作品賞を含む5部門にノミネートされ国際長編映画賞を受賞した。

Christian Friedel 1979年、ドイツ・マクデブルク生まれ。ミュンヘンの演劇学校で演技を学ぶ。卒業後はバイエルン国立歌劇場、ミュンヘン・カンマシュピーレ、ハノーファー国立歌劇場で活動。2009年カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』で映画デビュー。2015年オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の『ヒトラー暗殺、13分の誤算』を主演、ヨーロッパ映画賞の最優秀主演男優賞候補になるなど注目を浴びる。

Sandra Hüller1978年、ドイツ・ズール生まれ。ベルリンの演劇芸術アカデミーを卒業後、ライプツィヒやスイスの劇場で活動。2005年ハンス=クリスティアン・シュミット監督の『レクイエム~ミカエラの肖像』を主演、ベルリン国際映画祭の銀熊賞(女優賞)とドイツ映画賞、カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。2017年マーレン・アーデ監督のアカデミー賞国際長編映画賞ノミネート作品『ありがとう、トニ・エルドマン』の演技で話題を呼び、ヨーロッパ映画賞の最優秀女優賞を受賞。2024年のジュスティーヌ・トリエ監督の『落下の解剖学』はカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞、『関心領域』とともにアカデミー賞にもノミネートされた。その他の出演作に2019年の『希望の灯り』2021年の『約束の宇宙」)などがある。

今年に入って観た映画の中で、『Poor Things / 哀れなるものたち』はかなり衝撃的だと思いましたが、この『関心領域 The Zone of Interest 』はその上を行く恐ろしさがありました。
実際には怖いシーンがなく、想像に任せられているので、それだけスリル感が増したというのでしょうか。


私個人としては、ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS 』が好きでアカデミー賞国際映画長編賞を受賞することを願っていたのですが、受賞したのが『関心領域 The Zone of Interest 』なら仕方ないと諦めがついたのが本音です。

Ngā mihi
wonderer

ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。