倫理観をどこまでも揺さぶる『Poor Things / 哀れなるものたち』感想

Kia ora

鬼才ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演映画Poor Things/哀れなるものたちの感想を紹介。

原作のゴシック奇譚「哀れなるものたち」(早川書房刊)が美しく映像化。
人間の倫理観、道徳観をどこまでも揺さぶるこの『哀れなるものたち』に是非注目。
日本公開は2024年1月26日の予定。

『Poor Things / 哀れなるものたち』概要

原題: 『Poor Things』原作:小説『Poor Things / 哀れなるものたち』アラスター・グレイ著
ジャンル:ダーク・ロマンティック・コメディ
製作国:イギリス、アイルランド、アメリカ合衆国 言語:英語
監督: ヨルゴス・ランティモス/制作: ヨルゴス・ランティモス、エマ・ストーン
脚本:トニー・マクラマナ
出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ’、ウィレム・デフォー、ラミー・ヨセフ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公開日:2024年1月26日(金曜日)

あらすじ

天才学者のゴドウィン・バクスター博士(ウィレム・デフォー)によって蘇った若い女性のベラ(エマ・ストーン)は、ゴドウィン博士の家で手厚い保護を受けながら成長する。ある日ベラは弁護士のダンカン・ウェダーバーン(マーク・ラファロ)の誘いに乗り、未知の世界を知るために大陸横断の旅に出る。

感想

一部ではフェミニズム映画だと下されているようですが、Poor Things/哀れなるものたちは社会制度や社会的権威者への  satire 風刺映画です。
人間の本能と純真な心が、富を持ち社会の規範と言われる人々の裏腹を暴き出します。

その人間が持つ本能というのこの映画では性行為であり必然的に数多くのセックス・シーンがある他、目を覆いたくなるほどの痛い場面がありますが、それでもクレージーで残酷な映画という印象が残らないのは原作の質と、監督の手腕、それから役者の演技の賜物。

まずすべてのシーンが美しい。役者や話しを圧倒することなく見事に調和している豪華なセットや衣装に、ランティモス監督ならではのヨーロッパ人としてのみずみずしい感受性が伺えます。

初めてランティモス監督の『ロブスター(2015年)』を観たときはあまりにものストレートな内容に衝撃を受けましたが、『女王陛下のお気に入り(2018年)』でストーリーと映像の両方を楽しむことができ、この『哀れなるもの』はさらにビジョンや技法が進んだ傑作だと思います。

ランティモス監督が次にメガホンを取る予定の映画のタイトル名はずばり『Kind of Kindness ( 原題)』。今段階では詳しい内容はわかりませんが、もうすでにこの次作への期待が高まっています。

そして主役のベラを演じたエマ・ストーンの役者魂には脱帽です。あれだけのセックス・シーンがあるにも関わらず決して厭らしさを感じさせず、なおかつピュアで、また倫理的に成長する過程を数分の違いもなく演じています。

ランティモス監督の次作の『Kind of Kindness ( 原題)』も主役はエマ・ストーンに決まっているそうです。

それからそのエマ・ストーンの父親的な人物を演じたウイリアム・デフォーを拝めることができて得した気分です。ウイリアム・デフォーは何歳になってもカッコいい!

色々な面でとても面白い映画。
評価は文句なく星五つ。★★★★★

人物プロフィール

Yorgos Lanthimos、1973年ギリシャアのテネに生まれる。2009年の監督作品『籠の中の乙女』でカンヌ国際映画祭の部門のグランプリを受賞、アカデミー外国語映画賞にノミネートされる。2011年、ロンドンへ移住。2015年、コリン・ファレル主演の『ロブスター』でカンヌ国際映画祭審査員賞受賞、アカデミー脚本賞にノミネートされる。2018年、オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ主演の『女王陛下のお気に入り』で第75回ヴェネツィア国際映画祭にて審査員大賞、英国アカデミー英国作品賞を受賞。また主演のオリヴィア・コールマンにアカデミー、ゴールデングローブ主演女優賞をもたらした。

Emily Jean Stone, 1988年アメリカ合衆国のアリゾナ州に生まれる。11歳の時から舞台に出演し、15歳の時に女優を目指すべく母親と共にロサンゼルスに移住し、テレビデビューする。2007年『スーパーバッド 童貞ウォーズ』で映画デビュー後、様々な映画に出演。2010年にコメディ映画『小悪魔はなぜモテる?!』で初めて主演を果たしゴールデングローブ主演女優賞にノミネート。その後、『ステイ・フレンズ』『ラブ・アゲイン』『アメイジング・スパイダーマン』『L.A. ギャング ストーリー』に出演。2014年の『バードマン (無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でゴールデングローブとアカデミー賞で助演女優賞にノミネート。2016年公開の『ラ・ラ・ランド』で、ヴェネツィア国際映画祭女優賞、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞で主演女優賞受賞。2018年の『女王陛下のお気に入り』で、レイチェル・ワイズと共にアカデミー助演女優賞にノミネートされる。2020年に脚本家のデイヴ・マッカリーと結婚、2021年に女児を設けている。

あとがき

去年と違って良く出来た映画が勢ぞろいで、誰がオスカーを受賞してもおかしくない今年2024年のアカデミー賞。

この『哀れなるものたち』のエマ・ストーンの演技はアカデミー主演女優賞に十分に値するかと思いますが、ライバル視されている『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン(マーティン・スコッセシ監督)』の主演女優のリリー・グラッドストーンも良くて甲乙つけがたいですよね。

ですが作品賞と監督賞はそれぞれ『哀れなるものたち』とヨルゴス・ランティモス監督が受賞するのではないかと見ています。さてどうなることやら。

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ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。