ニュージーランドの小学校、ずばり現地の視点から日本との違いや体験談など徹底解説

Kia ora

慣れない土地で初めて子供が小学校に通学するとなると、どうしても不安や悩みがつきまとうもの。そこでニュージーランドの小学校についてまとめています。一般的な概要だけでなく、日本との違いや体験談なども含め、現地の視点からずばりニュージーランドの小学校について詳しく紹介します。

1 小学校の概要

  • 6年制と8年制がある。6年制を卒業後はIntermediate と呼ばれる2年生の中学校に通う
  • 5歳の誕生日を迎えたら6歳になる迄の間に入学。個別入学のため入学式はないが、学校によっては先住民マオリ族の歓迎式*Pōwhiri(ポーフリ)が行われることもある。
  • 2月の頭から新年度が始まる。4学期で構成され、学期と学期の間に2週間の休みがある。12月中旬に年度が終わり約6週間の夏休みとなる。
  • 給食は無く、個人でモーニング・ティーと昼食を用意。
  • 生徒の志願数が多い学校ではゾーン制が敷かれ、学校周辺の決められた区域内に居住する生徒のみに制限しているところもある。
  • 各小学校の内容は文部省発行のEROレポートで確認できる
    https://www.ero.govt.nz/

*Pōwhiri(ポーフリ)の詳しい内容についてはこちらを。

2 日本の小学校との大きな違い

  • 寄付金制。寄付金の額は学校によって異なる
  • new entrant ( 新入生)クラスと呼ばれる 0年生制度がある
  • 1クラスの生徒の人数は20~30人
  • 暗記型ではなくプロジェクトを基盤とした探求型の勉強方法
  • Reading と算数は個人の習熟度別に分けられたグループで学習
  • 1日の始まりや終わりの時間は、教室の前の方の床に座って先生の話を聞く。
    また、このマットタイムと言われる時間に、生徒が交代で前に立って各自のニュースなどを発表する
  • 教科書は無く、授業中に配られたプリントをノートに張り付ける。ノートは先生が保管
  • 2学年混合のミックスクラスがある
  • 低学年のクラスにはおもちゃがある
  • 文房具はクラスで共有して使用、個人で所有しない(購入した文房具に名前を書かないこと)
  • 教師は学校および理事会に雇用されている。年度の途中でも担任が転職し替わることもある

*上記の項目の内、日本と全く異なる項目についてはそれぞれ詳しく紹介します。
 続けてご覧ください。

3 寄付金制度

小学校1年生 ( Year1 ) 〜高校生2年生( Year 12) までは義務教育ですが、完全に無償ではありません。
各学校は
政府からの補助金で補なえない部分は寄付金として生徒の家庭から徴収します。
政府からの各学校への補助金は一律ではなく、その学校のある地域の経済状況に寄り額が異なります。

その地域の経済状況は、住人の世帯収入、学歴、家族構成などの条件を基に算出した decile ( ディサイル )と呼ばれる10段階で指標され、このdecile ( ディサイル )の数値が高ければ高いほど、その地域の経済状況が高い、decile ( ディサイル )の数値が低ければ低いほど、その地域の経済状況は低いということになります。decile ( ディサイル )が高い学校は地域は政府からの補助金が少なく、その代わり寄付金など保護者が負担する額が大きくなります。
逆にdecile ( ディサイル ) が低い学校は政府からの補助金が多く、その分個人の負担も少なくなります。

尚、 decile ( ディサイル )の数値は学校の教育水準を表すものではありません。

補足ですが、寄付金はあくまでも寄付金ですので絶対に支払わなければならないということはありません。
が、支払わなければ支払いの催促状が定期的に送られたり、場合によっては年度末の学校から各生徒への配布物の有無に関わることもあります。

4 新入生/0年生制度

多くの小学校では、5歳児の入学時期によって、1年生から始める代わりに new entrant (新入生)クラスに入って0年生から始まるシステムが敷かれています。

具体的には、ある区切り ( cut off と呼ばれます)の時期の前に入学した子供は1年生として、区切り後に後に入学する子供は、新入生組クラスに入り翌年2月の新年度から1年生を始めます。
尚この区切りの時期の線引きは各学校によって異なります。

5 学習について

他の西欧諸国と同じように、ニュージーランドでもプロジェクト・ベースの学習方法が導入されており、トピックを深く掘り下げて取り組むことで学術的に関連させるカリキュラムが敷かれています。また、高学年になるとコンピューターを使って自分で情報を検索します。
繰り返し暗記型の教育方法ではありません

例えば、古代文明がテーマの時は、reading の時間に関連した本を読む、writing の時間に自分の感想などを書く、ミイラの真似して包帯を巻く練習をしたり、当時の動植物や昆虫を研究したり壁画を真似して絵を書くなど、丸々一学期を費やして 多角的に学習します。
期の最後で仮装大会で締めることも珍しくありません。

NZの小学校 仮装

生徒のReading , Writing, Mathematicsと言われる読み書きと算数の三教科の能力は、全国レベルの水準に合わせて3段階で評価されます。

その中の Reading とMathematicsは1年生から習熟制が敷かれ、生徒の学力に応じた内容とスピードで学びます。画質が悪くて申し訳ないですが、下の写真は Reading は習熟度ごとに生徒の名前が 分けられており、mathematics はこれから各自の習熟度を精査してグループ分けさせるところです。
グループ名はラグビーチームの名前のように、生徒にも保護者にもレベルがわからないよう付けられています。

こうして本人の能力に応じたグループで学びながら段々と上達していきます。
また、学力が高い生徒には、extensionと呼ばれる学年よりさらに上の課題に取り組む機会が与えられます。

習熟度グループの学習時、自分のグループが先生のテーブルに呼ばれて勉強する以外の待ち時間は各自の課題に取り組みますが、低学年のクラスでは課題の代わりにテーブルの上に用意されたおもちゃで遊びながら待機しています。

文房具は新年度の前に渡されたリストにあるものを買い揃えて先生に渡します。
授業は基本的に教科書を使用せずプリントをノートに貼り付けていくため、ノートやペン、ノリなどについては細かく指定されます。
低学年の生徒は自分で管理するのが難しいので先生がまとめて管理します。共有して使うことになり、自分が買ったものを使うとは限りません。

dyslexia ( 失読症)や graphesia ( 自身が書く文字を認識できない)などの学習障害がある生徒は、特別にトレーニングを受けた教師もしくは teacher’s aide と呼ばれるサポートスタッフから指導を受けます。
最初の3~4年ほどの指導で、ほとんどの生徒が普通の生徒と同じように読み書きできるようになると言われています。


筆者の子供が通学した小学校では、graphesia 症状がある為鉛筆でなくパソコン上で書いていた生徒が優秀な成績を収めて表彰をされて卒業したケースもあります。

6 体験談

ここでは筆者自身の子供(A)の体験と個人の感想を述べます。

5歳になる前の年の10月ごろに小学校に入学申請。学校は入学申請書を取りに訪れた近所の小学校の印象が良かったので、そこに決定。他の学校は全く考えませんでした。
翌年の5月、Aの5歳の誕生日と同時に入学。1、2年生混合クラスに入りましたが、7月に入るとAようにカットオフと言われる5月以降に入学した生徒5人とともに新設の New Entrant  ( 新入生)クラスに移りました。Aはカットオフぎりぎりの入学で1,2年生混合クラスで学ぶこともできましたが、英語があまり得意でなかったため新入生クラスでゆっくり英語環境に慣れさせることにしました。
翌年の2月から1年生となり1、2年生混合クラスの習熟度学習により、年度末にはReadingは1学年上のレベルと評価を受けました。
英語環境に不安を感じている方でも、習熟度制で個人の能力にあったペースで学習できるのでご安心下さい。

NZの小学校の教室 © wonderer
入学した後に知ったのですが、Aが通った小学校の decile は4です。政府からの補助金が多いおかげで寄付金の額は40ドルとdecile 10の学校に比べれば300ドル近く、校外へ出かけたり学校に招待されたパフォーマンスなどの特別授業も1回1ドルくらいですみました。校庭には自転車用のサーキットや、子供たちが面倒を見る植物園、リサイクル学習システムなど施設も十分に整っていました。また、学校に経済的に余裕があるのでteacher’s aide などのサポートスタッフの数が多く、何よりもそういう学校だからと思いますがコミュニティ奉仕型の教育熱心な先生が多く、入学から卒業まで障害児とともに健全な社会性を身に着けるべく、心身ともに手厚い教育を受けることができました。

一度、AがReading が得意でも Writing が全く伸びないのでどうしたものだろうと思い担任の先生にメイルを出して相談したら、その翌日には担任の先生とアカデミック専門の学年主任の先生とAと私の4人で面談してあれこれアドバイスをもらったほどです。

その学校を卒業後、Aは友人とともに隣の地区の decile 10 のIntermediate School  に難なく進学しています。

decile の数字は教育水準を指し示すものではありません。

7 あとがき

慣れない土地で子供を小学校に通わせる事に対し不安が付きまといがちですが、ニュージーランドでは上述の通り、子供に合わせた柔軟な対応がなされているので、ご安心下さい。
ニュージーランドは多民族国家である為、柔和な社会情勢が学校教育にも色濃く反映しています。

また、中には学校選びに頭を悩まされている方もいらっしゃるかもしれませんが、一言でいうと小学校での教育はどこもさほど変わりはありません。
繰り返しになりますが、decile の数字は教育水準を指し示すものでもありません。

ニュージーランドでは小学校は  子供が nurtured (養育される) 場所であると言われます。
私自身も正しくその通りだ思います。
子供たちには、小学校でゆっくり時間をかけてこの先長い人生の大事な基礎を築いて欲しいですよね。

最後に、ニュージーランドの小学校では自己紹介のために保護者がマオリ式の Pepeha (ペペハ)なるものを作ることがあります。このPepeha (ペペハ)についても以前特集を組んでいますので、併せてご覧ください。

 

また、ニュージーランドの教育方針についてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事をクリックしてお読み下さい。

 

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wonderer


ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。