Kia ora
現在ニュージーランドの高校では年度末の全国一斉テストが行われている最中ですが、その三分の二の生徒の文章力の能力が標準に達しておらず、国会やマスコミで物議を醸し出しました。計算能力は半数近くが基準に達していなかったといいます。
教育システムの危機とも危ぶまれているニュージーランドの高校の状況について詳しく説明していきます。
はじめに
ニュージーランドは現在、NCEAと呼ばれる全国統一のカリキュラムの改訂が行われており、今年はその移行期間に当たります。
新しいカリキュラムを導入するにあたり、幾つかの高校で実験的に識字能力と計算能力を測るテストが行われたところ、実に64%の生徒の文章力の能力が基準を下回る結果となりました。
Only a third of students passed writing standard in NCEA pilothttps://t.co/OXSj74nOir
— Grim (@Nzgrim) October 21, 2022
NCEAテストの実験が行われた背景
その実験的なテストについて説明する前に、全国統一カリキュラムのNCEAについて簡単に紹介します。
NCEAは、The National Certificate of Educational Achievement の略で、ニュージーランドの高校のカリキュラムを指します。
現在のNCEAは2002年に導入され、以来ニュージーランドでは毎年15万人の生徒がこのカリキュラムに添って学習しています。
このNCEAのカリキュラムでの生徒の学績は、単元末毎に行われるテストと、 11月中旬~12月中旬に全国一斉に行われる external と呼ばれるNZQA ( NZの資格審査協会) が審査するテスト結果により評価されます。
このexternal テストは、今年2022年は11月7日から約二週間にわたって行われています。
20年に渡って実施されているNCEAカリキュラムですが、以前より批判を浴びていました。
その原因の一つに、2014年の結果が、レベル2(Year 12 ) では40%、レベル1( Year 11 ) では50%の生徒の識字と計算能力が標準以下であったことが挙げられます。
加えて、父兄の間からは、カリキュラムの応用性が乏しく個々の生徒に即した内容ではないこと、また、テストが難しすぎるという声が上がっていました。特に、2017年以降は数学のテストの問題がひねくれていると一連の苦情が寄せられています。その他にもオンラインやデジタル上でのテストについて生徒や教育者の間で賛否両論に分かれています。
このため、2024年から新しいカリキュラムが導入される運びとなり、去年2021に引き続き今年2022年も新カリキュラムが絞られた高校で試験的に行われました。この新カリキュラムの試験的な試みは来年2023年も行われます。
最終的に新カリキュラムは2024年にlevel 1 から始めて2026年にレベル3まで導入される予定です。
因みに、読む、書く、聞く、話す識字は Literacy、 計算、計測、統計の能力はNumeracyと呼ばれます。
また、高校の Literacy は英語の教科のみでなく、数学などの教科でも文章で解答する内容は評価対象となります。
NCEAについてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
実験テストの結果
新カリキュラム導入の為の実験として行われたテストには今年は200を上回る数の高校が参加しました。
この実験的なテストは、兼ねてより懸念されている高校生の基本的な読み書きの学力の低下を現実的なデータとして捉えることを目的とし、6月半ばと9月半ばに二回実施されました。
そして実際の結果は、読解力は64%、文章力は34%、そして計算能力は56%の生徒が基準値を満たすというものでした。
マオリ語で行われたテストでの識字は24%、計算能力は18%の結果が出ています。
また*ディサイル(地域の経済指標)10の学校では読解力85%、文章力62%、計算能力は78%の生徒が標準に達したのに対し、ディサイル1の学校では読解力24%、文章力2%、計算能力10%、ディサイル2の学校では読解力30%、文章力8.5%、計算能力12%と、経済環境が低い学校の生徒ほど標準に達する割合が低いことがわかりました。
* ディサイル
その地域の経済状況は、住人の世帯収入、学歴、家族構成などの条件を基に算出した decile ( ディサイル )と呼ばれる10段階で指標され、このdecile ( ディサイル )の数値が高ければ高いほど、その地域の経済状況が高い、decile ( ディサイル )の数値が低ければ低いほど、その地域の経済状況は低い。
ディサイルについての詳細は次の記事をご覧ください。
実験結果への反応
上述した結果は、去年より更に下回るものであり、各界でニュージーランドの高校の教育について危ぶむ声が上がっています。
現場側
この実験に参加した高校側は、ニュージーランドの高校生の識字能力と計算能力の学習習得に問題があることはすでに認識されており、今回の実験の結果はそれをただ裏付けたに過ぎないと、冷静に受け止めています。
一方で教師からなるグループのトップは、早急にNCEAのオーバーホールを一旦停止して、教師にカリキュラム変更に取り組む時間を与えるべきだと主張しています。過去三年の間コロナ禍の影響で授業が中断し思うように学習で出来なかった事実を踏まえた上で、教師が生徒に新しい導入システムに必要なことをすべて理解させ不合格にならないようにすることが大事であり、具体的には新しいカリキュラムが実際に導入される前に、教師と生徒が一緒になって新しい教授法と学習方法双方の変更に取り組むべきだとコメントしています。
推進者側
文部大臣の Jan Tinetti (ジャン・ティネッティ) は、「政府はすでに生徒の識字と計算能力の向上にむけて早急な対応をしており、今回の新しいカリキュラム導入はその一環である。また、今回の試験的な導入の結果、学校や、教師、生徒など現場から貴重な生のフィードバックを得ることが出来、それゆえに2年後に本格的に導入される新カリキュラムは、断固として公正で目的を十分に果たすものになる。」
「噛み砕いて言うと、今回の実験に対する学校からのフィードバックにより、学校側はもっと準備期間が必要だということが証明された。また実際の実験の結果からも、新カリキュラムに改善されるべき点が明確となった。」
「文部省は現在学校側に対し、識字と計算能力を向上させるための資料の他、教師の専門知識を得るためのサポートを経済的に負担するなど支援している。同時にコロナ禍で中断されて授業が行われなった内容に対しても対応している他、個別指導や、夏期講習、校外のプログラムに参加する経済的な援助も行っている。」
と述べています。
批判
野党のナショナル国民党は、「今回の識字・計算能力の結果は信じ難いほどに危険な数字を示しており、ただちに教育システムの方向転換をして生徒の達成意欲を高めて結果を改善する必要がある。
識字・計算能力の基準値は高校卒業後の社会で最低限必要なレベルに設定されているにも関わらず、過半数の生徒がその最低基準に達していないことは、将来の社会経済の在りかたに対し現在の教育が失敗していてるも同然。また、低所得者層の家庭の子どもの結果はそれ以上に憂慮すべきである。」と激しく批判しています。
(出展:
https://www.stuff.co.nz/national/education/300717942/only-a-third-of-students-passed-writing-standard-in-ncea-pilot
https://www.rnz.co.nz/national/programmes/morningreport/audio/2018864161/national-party-not-happy-with-ncea-tests-trial-runhttps://www.nzherald.co.nz/nz/ncea-changes-just-2-per-cent-of-decile-1-students-pass-new-writing-pilot/KIDUCLS52MCPJ6F624HRHWPRBY/ )
あとがき
いくらカリキュラム改訂のための試験的な結果とは言え、さすがに70%近くの高校生が文章力の標準レベルに達していない事実に対し、ナショナル国民党が主張する通りニュージーランドの将来に一抹の不安を感じざるを得ません。
ですが、高校生の識字能力の低下はすべて学校のカリキュラムが原因であるとは言い切ることはできません。
小さいころから本を読んだり、それから親や兄弟や家族との会話の量が減っていることも原因にあると思います。特に、デジタル化が進み小学生でもスマホやコンピューターで動画を見たり、文章の代わりに絵文字を使うなど、文章を読んだり構成する機会が少なくなっているばど、社会的な文章離れも大いに関係していると思います。
ですので、高校生の識字率の低下は学校の中だけでの問題ではなく、社会全体の問題として捉えて対応しなければならないかと思いますが、いかがでしょうか。。。
Ngā mihi
wonderer