9月13~19日はマオリ語週間 NZにとってマオリ語とは?

kia ora

もうすぐニュージーランドでは ‘Te Wiki o te Reo Māori’, マオリ語週間が始まります。マオリ語週間とは、文字通りマオリ語の強化週間ともいえる啓蒙活動の一環で毎年行われており、2022年は9月13~19日に当たります。

この編ではそのTe Wiki o te Reo Māori’, マオリ語週間の目的や歴史の変遷などを詳しく紹介していきます。

ニュージーランドでは毎年9月の第三週目にTe Wiki o te Reo Māori’, マオリ語週間が開催されます。
マオリ語の再活性化策の一環として、政府とコミュニティが一体となって行われるマオリ語週間中は、言葉を学ぶと共に地域の豊かな文化を経験することができます。

このように大々的に行われるマオリ語週間の目的として、NZ政府は次のような項目を掲げています。

1.マオリ語の啓蒙
マオリ語はマオリ文化の一部でありニュージーランド人のアイデンティティーを成すものである。そのマオリ語を話す習慣を身につけることで、ニュージーランドの歴史上忘れ難き重要な事柄を継続するものである。

2. ニュージーランドを祝う
マオリ語週間はマオリ語とそれからニュージーランドの国全体の文化と成長を祝うものである。

 マオリ語が大事な理由

ここでは、なぜマオリ語がそれほど重要なのか、その理由を説明していきます。

 1.  言葉は文化遺産である

マオリ語は、マオリ文化の中核を成すとともに、マオリ人個人の存在やアイデンティティーを形成する大事な要素です。
これはマオリ語だけに当てはまるものではありません。どの言葉や文化においても同じ事が言えます。
その昔大英帝国が植民地に敷いた北アメリカやアフリカ、そしてオーストラリアでは、原住民の権利や文化は完全に無視されたも同然でした。歴史上他の国のにおいても、武力により消滅した文化は多々あります。現代社会においては、武力で文化や言葉や表現を奪うことは許されません。

ニュージーランド国内でマオリ語が廃れてしまうことは、この地球上からマオリ文化が無くなったも同然です。
そうならないように、ニュージーランドにしか存在しないマオリの言葉やマオリ文化を守るのがニュージーランド人としての心得であると言えます。

 2.  ワイタンギ条約で保証されている

もう一つの理由として、マオリ語はワイタンギ条約で保証されている点も挙げられます。
ワイタンギ条約は1840年マオリ族と大英帝国王室との間で交わされでた契約書です。このワイタンギ条約締結により事実上NZは大英帝国の植民地となった訳ですが、ほとんどのマオリ族が署名したマオリ語版の契約書には、マオリ族は土地や知的財産の所有が保障されています。英語版には知的財産は含まれておらず事情が複雑になった過去の経緯がありますが、契約書で知的財産の所有が保障されている以上、政府はそれを守るべきなのです。

 

 マオリ語の変遷


1,000 ~ 1,800年
約1,000年前、マオリ人はニュージーランドの最初の入植者として移住。
以来800年の間、NZではマオリ語が話される。マオリ語は口語のみであり文字表記はされてなかった。

1,800  ~ 1,840年
1800年に入りイギリスなど西欧諸国から入植者が入る。入植者は商業取引や生活の面でもマオリ人に依存していた為、マオリ語を話す。
入植者の数が増えるにつれ書面が必要となり、1814年から宣教師がマオリ語をアルファベットに置き換えた文字を作ると、マオリ族は喜んで文字を採用。
宣教師や、政府高官、そして彼らの子どもはマオリ語を流暢に話していた。

1860年
西欧からの入植者の数がマオリ族の人口を越え、次第に社会に英語が浸透。マオリ語はマオリ人の間でのみ話され、また移住地もマオリ族と入植者は別々の地域となり、双方の間で交流することはほとんどなかった。
西欧人の間にマオリ語の重要性を理解できるものはおらず、次第にマオリ語を話すことは公的に推奨されなくなる。
マオリ人の間でも、部族ではなく個人主義に重点をおく西欧社会にマオリ語を関連付けることに疑問が沸き始める。
その後西欧文化に同化させるという目的で、マオリの子どもたちは学校でマオリ語で話すことが禁止され、守れなかった場合は体罰を受けた。

1920 年代
マオリ語の文法を教える学校はごく僅かで、また、職場やスポーツのグラウンドで会話するにはマオリ語でなく英語を話すことが必須であった為、マオリ人自身もマオリ文化から離れる事を理解しながらも子どもに英語を学ばせた。
その一方で、家庭ではマオリ文化が崇められマオリ語で会話されマオリ語は生き残った。マオリ新聞やマオリ語の歌の本なども出版されおり、マオリ語は親から子どもへと受け継がれた。

1950 年代
第二次世界大戦はマオリ社会に大きな変化をもたらす。仕事に就くために数多くのマオリ人が田舎から街に移り住む。戦前はマオリ人の75%は地方に住んでいたのに対し、戦後は60%が街に住むようになる。
都会では職場や学校、娯楽施設でも英語のみが使われ、また学校の教師にマオリ語を理解できるものはおらず、次第にマオリ語は忘れられる。

1970 年
マオリ語は急激に廃れ、マオリ後を第一言語として話すマオリ人は20%を割る。そしてその20%の人の家庭でも日に日にマオリ語は使われなくなっていた。

1972 年
マオリ人の中にマオリ語の消滅によるアイデンティティーの喪失に警笛が鳴らされる。三つの団体がマオリ語の啓蒙活動に向けて政府へ嘆願。3万人が署名し、9月14日国会に提出

1975 年
三年後、嘆願書が出された9月14日からマオリ語週間が始まる。
英語とマオリ語の両方で教育する学校が開設

1983 年
マオリ語のラジオ局開設、また、若い世代と教育システムを対象とした本格的なマオリ語リカバリープログラムへの取り組みが始まる。

1985 年
ワイタンギ条約審査所はマオリ語を知的財産と認め、政府はマオリ語を守る義務があると審査を下す

1987 年
マオリ語は公用語に採用される

2008 年 ゴーグルはマオリ語の検索バージョンを発表
2015 年 NZのクリケットの代表チームBlack Capsが、マオリ語週間中に開催された試合でNZの代わりにAotearoa(アオテアロア:ニュージーランドをマオリ語で呼び方)代表として出場
2016 年 ウォルトディズニー映画『Moana(邦題:モアナと伝説の海』がマオリ語で上映される
2021 年 9月14日に同時に百万人の人々がマオリ語を話すイベントが開催 同日国会のマオリ党はアオテアロアが公用の国名として採用されるよう署名活動を始める

* 2006年の調査では、マオリ人の23.7%が流暢に話すと回答。その50%は65歳以上が占め、15から64歳では25%、15歳以下は16%の回答結果が出ている。
マオリ語は衰退が止まり復活しつつあるが、それでも言葉として生存可能になるには、すべての年齢において相当多数の話ができる人が必要であり、そのためには、マオリ族のみだけでなく、英語を話す人や他の人種のコミュニティのサポートが必要である。

(出典 https://nzhistory.govt.nz/culture/maori-language-week/history-of-the-maori-language )

 NZ社会におけるマオリ語を話す利点

マオリ語を話すことはマオリ文化を継承する以外にも色々な面で利点があると言われています。

 ニュージーランドで就職する際は、特に政府関係の機関ではマオリ語の基本と文化を知っていることが望まれている。

● 一般的に、マオリ語を習得するおかげで、NZ人は海外でも他の国の言葉や文化を受け入れやすい

● 他の言語の習得は認識力を高め、自主性や創造性に富み、マルチタスクが可能であると調査結果が出ている

● 生涯言葉を習うことは加齢にともなう記憶力低下などを遅らせる

 マオリ語週間の楽しみ方

さて、マオリ語週間のキャンペーンで唄われている三つの項目を挙げておきます。
家族で楽しく取り組んでみることが鍵です。

● 新しい単語を覚えよう!
最低12個の言葉を覚えるようにしましょう。部屋や家具などに付箋紙を付けたりして家族で楽しみながら学びましょう。

● 正しい発音方法を学ぶ
この機会にマオリの友人に聞いたりYouTubeを観たりして、正しい発音方法を確認しましょう。

● テレビ番組を活用する
マオリ語の子供向けテレビ番組を観ながら、子供に言葉やフレーズを繰り返し言わせたりするなど、異なる文化に触れさせましょう。

(出典 https://nationaltoday.com/maori-language-week/#:~:text=M%C4%81ori%20Language%20Week%20is%20an,%2C’%20is%20government%2Dsponsored.)

School children participating in the Maori Language Week parade in Wellington in 2016

 

 あとがき

ニュージーランドに長く住んでいるとたまにマオリ語を話しても役に立たない、他の国の言葉を学んだ方が有益であるという声を聞くことがあります。ですが、上述のようにニュージーランドに住んでいる限りは、マオリ語や文化をニュージーランドの文化遺産として皆で大切にする義務があります。それでなくても、マオリ語は日本語と同じように、一つ一つの言葉に深い意味があり、そしてマオリ語を習うことは、自分を改めて認識することにも繋がります。

最後に、マオリ語のベネフィットとして就職に有利であると言うのは本当で、政府機関の他にも教育機関や金融機関でも同じです。ニュージーランドで就職を希望する人は、マオリ語と併せてワイタンギ条約についての知識も習得されることをお薦めします。

尚、マオリ語に興味がある方は、これまでマオリ語で挨拶する方法や、マオリ語で自己紹介 などマオリ語に関する記事を書いていますので是非一緒にご覧ください。

Ngā mihi
Wonderer

 

 

 

ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。