Kia ora
今回お届けするシネマは、『秘密の森の、その向こう』です。
『秘密の森の、その向こう』は、『燃ゆる女の肖像』で世界を魅了したフランス女性監督セリーヌ・シアマの最新作。
ニュージーランドでは原題の『Petite Maman』で今年初めに公開され、シネマファンの話題となりました。
日本では9月23日に劇場公開の予定です。フランス映画ファンだけでなくジブリファンにもお薦めする映画です。お見逃しなく。
映画概要
原題: Petit Maman
ジャンル: ファンタジー 製作年: 2021年
製作国 : フランス 上映時間 73分 言語:フランス語(字幕翻訳:横井和子)
監督・脚本:セリーヌ・シアマ
出演: :ジョセフィーヌ・サンス、ガブリエル・サンス、ニナ・ミュリス、マルゴ・アバスカル
賞:ロサンゼルス、サンディエゴ映画祭外国語映画最優秀賞
評価: Rotten Tomatoesの97%(2022年7月)
あらすじ
8歳の少女ネリーは大好きだったおばあさんを失くし、両親と共に田舎の森の中にあるおばあさんの家を訪れ後片付けを手伝う。が、悲しみに耐え切れなくなったネリーの母親が何も言わずに家を出てしまう。父親と二人おばあさんの家に残されたネリーが森を散策すると、ツリーハウスを作っている1人の女の子と出会う。同い年でマリオンと名乗るその女の子とネリーの二人はすぐに仲良くなり、ネリーはマリオンの家に招かれる。
感想
私自身の子どもがまだ小さかった頃に読んでいた子供向けの創作童話『いやいやえん』(中川李枝子作、大村百合子絵)を思い出しました。『いやいやえん』は幼稚園、『秘密の森の、その向こう』では森の中の家と普通に存在する場所が異次元の世界となり、現実かそれとも空想の世界なのかどちらとも取れるファンタジーの中で、子供たちを通し人生の大事なエッセイが描かれています。
『いやいやえん』を読んで宮崎駿は創作童話作者になる夢をあきらめアニメーションの世界に入ったといいますが、その宮崎駿をこの『秘密の森の、その向こう』の監督と脚本を手掛けたセリーヌ・シアマは師として仰ぎ、『秘密の森の、その向こう』は宮崎駿を十分に意識して作ったそうです。
シアマ自身はあるアメリカの新のインタビュー記事で、『秘密の森の、その向こう』はスタジオ・ジブリの『トトロ』に一番近いと答えています。親子の人間関係を描いているという点では『トトロ』かもしれませんが、やはり私は『いやいやえん』が最も近いと思います。
それにしても『秘密の森の、その向こう』は、まだ8歳の主人公の女の子が無邪気に遊んでいる一方で、1人の人間として真実に迫る言葉を織りなしても違和感がないことに感服させられました。それほどまでに見事にシューレアリズム理論が上手く生かされているのは、監督の腕前の良さでしょう。
そして森や家の中、それから女の子の洋服などの一つ一つに美的感覚が追求されている点も素晴らしく、さすがフランス映画です。
私がもっとも気に入ったのは、一面濃い青色のタイルで覆われたバスルームです。
森の中とは逆で鋭角的な要素がこのバスルームにあり、ファンタジーと現実の世界を上手く繋いでいると思います。
大人向けの創作童話映画。★★★★★
良質のシネマ好きな方は必見です。
監督・脚本
☆ セリーヌ・シアマ