『The Whale/ザ・ホエール』切ないほど人間愛に満ちた悲しくて美しい映画 ★★★★★

Kia Ora

今回の映画レビューは、日本では4月に公開予定の『ザ・ホェール(原題) The Whale 』です。

過去にセクシャルハラスメントを受け遠ざかっていた芸能界への復帰作品、そして『ザ・ホェール』の主役の渾身の演技でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、がぜん主演のブレンダン・フレイザーに世間の注目が集まっています。

一方前作の『ブラック・スワン』で世間を騒がせたダーレン・アロノフスキー監督は、この『ザ・ホェール』も批評は賛否両論ですが、切ないほど人間愛に満ちた悲しくて美しい映画としてお薦めします。

 映画概要

2022年製作/英語/117分/PG12/アメリカ/字幕翻訳:松浦美奈
原題:The Whale
配給:キノフィルムズ
原作:サム・D・ハンター
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演者:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン
日本公開予定日:2023年4月7日(金) 

 あらすじ

過去の出来事がトラウマとなり自宅に引きこもり過食生活を送っている主人公のチャーリーは、重度の肥満症を煩い死期が近いことを悟る。
そんなチャーリーの元に一人娘のエリーが突然現れる。エリーとは元妻と離婚して以来8年間疎遠になっていたため、チャーリーはエリーとの関係を修復を試みようとするが、エリーも学校と家庭で問題を抱え心が荒れている。そんなエリーに対し、チャーリーは自身が抱える喪失感、絶望感と闘いながら、一つの願いを伝えようとする。

 感想

まずはなんと言っても『ザ・ホエール』の特徴はスリル感があること。特に映画に慣れるまでの最初の10分間は、主人公のアパートの中の薄暗い光彩、そして緊張感のあるバイオリンの音色も加わり、まるでサスペンスドラマのように次に何が起こるのだろうかとハラハラドキドキ。そして一気に結末を迎えたというのが正直な感想です。そしてその最後の結末シーンもとても劇的で残酷でした。

 

そのスリル感の他にも、主人公のチャーリーと他の登場人物一人一人のセリフがキーとなっていることも大きな特徴です。度々引用されるハーマン・メルヴィル『白鯨』もそうですが、会話の至るところに隠喩がほのめかされています。映画のテーマとなっている心の奥底にある自身に正直であることはかなり普遍的なテーマですが、一般社会規範や宗教的価値観と比べながら、そしてそのテーマを伝えようとするチャーリー自身の苦悩や葛藤とあいまって、迫力のあるメッセージとなっています。
おかげで、映画を観た翌日もまだ余韻に浸っていたほどです。

個人的には娘を持つ母親として、チャーリーと元妻の会話が強く印象に残っています。また、チャーリーの過去がフラッシュバック式ではなくて、会話の中で少しづつ明かされている点も素晴らしいと思います。

主演のブレンダン・フレイザーはトップ・スターに登りつめた2003年にハリウッド外国人記者協会(HFPA)の会長から下半身を触られ、心身ともに不調をきたしたとありますが、それを訴求したところ映画界から締め出されていたという説もあります。
アカデミー賞の主演男優賞はまさしくブレンダン・フレイザーのためにあるものと言っていいほど、渾身の演技でした。今後も大いに活躍してもらいたいと願います。

その一方で映画評は賛否両論のようですが、人間の深層心理をストイックなまでに突き止めた映画として、シネマファンの方にお薦めします。
★★★★★

 

 監督

 

  ◎ 監督:ダーレン・アロノフスキー

Darren Aronofsky 。 アメリカ合衆国の映画監督・脚本家。1969年ニューヨークのブルックリンでユダヤ教保守派の家庭に生まれる。生物学に興味を持ちケニアやアラスカで研究活動を行い、ハーバード大学の学生時代には社会人類学を専攻していたが、友人の影響で映画制作に目覚める。1996年の処女作『π』で、サンダンス映画祭で最優秀監督賞を受賞。2000年の『レクイエム・フォー・ドリーム』、『ファウンテン 永遠につづく愛』に続く。2008年公開のミッキー・ロークを起用した『レスラー』(主演:ミッキー・ローク)が第65回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞。2010年公開の『ブラック・スワン』でアカデミー監督賞にノミネートされ、主演のナタリー・ポートマンアカデミー主演女優賞を受賞した。当時交際していた女優のレイチェル・ワイズとの間に息子がいる。

   キャスト

  ◎ 主演:ブレンダン・フレイザー

Brendan James Fraser。 1968年12月アメリカ合衆国インデアナポリスに生まれる 。子供のころは両親の仕事の関係で世界各地を転々としフランス語にも堪能である。シアトル芸術大学卒業。1991年に映画デビュー。1999年~2008年の『ハムナプトラ』シリーズ、2008年の『センター・オブ・ジ・アース』(2008年)で主演し人気を得る。その後ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人映画記者協会の元会長フィリップ・バークと握手した際に臀部を触られたことや家庭内の問題で鬱を患ったことと、業界でブラックリスト化され映画会から遠ざかった。
映画界の復活作品である『ザ・ホエール』の主役の演技は、ヴェネチア国際映画祭で絶賛を受け、オスカー主演男優賞の有力候補である。

  ◎ 娘エリー役 : サーディ・シンク  

adie Elizabeth Sink。 2002年、アメリカ合衆国テキサスに生まれる。7歳で演劇をはじめ10歳の時にアニーの主役でブロードウェイの舞台に立つ。テレビドラマや映画に進出し、ネットフリックスの大ヒットドラマシリーズ『ストレンジャー・シングズ』のマックス役で名声を得る。15歳でパリファッション・ウィークでモデルとしても登場。

  ◎ 友人リズ役 : ホン・チャウ

Hong Chau。 1979年タイの難民キャンプに生まれる。両親はベトナム人。キリスト教教会の支援でアメリカ合衆国に移住。ボストン大学で映画学を専攻。2006年に女優デビューし、2017年の『ダウンサイズ』で数々の賞にノミネートされる。『ザテ・ホエール』ではアカデミー助演女優賞にノミネートされている。

   あとがき

『ザ・ホエール』は決して娯楽映画ではありません。切ない程に人間愛に満ちた、悲しくそして美しい文学映画です。

『ザ・ホエール』を好きな方は、以前紹介した、『ドライブマイカー』『ザ・パワーオブザドッグ』も楽しんでいただけるかと思います。まだご覧になってない方はこちらもどうぞ。


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ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。