映画『The Outrun 』シアーシャ・ローナンが心の闇を克服する女性を等身大で演技

Kia ora

映画『The Outrun 』をニュージーランドで観たレビューです。

アルコール依存症を克服する女性を、シアーシャ・ローナンが等身大で演技しています。
心が折れそうな時に見るとよいかもしれません。

原題:『The Outrun 』
ジャンル:ドラマ、言語:英語、製作:2023年、製作国:イギリス、ドイツ、上映時間:118分、
原作:『The Outrun 』エイミー・リプトロット
監督:ノラ・フィングシャイト
脚本:ノラ・フィングシャイト エイミー・リプトロット
出演者:シアーシャ・ローナン、パーパ・エッシードゥ、スティーヴン・ディレイン、サスキア・リーヴス

ローナはロンドンの大学院で海洋生物学を専攻するも、アルコール依存症となり破滅的な生活を送る。リハビリ後、故郷のスコットランドの離れ島オークニー諸島に戻る。そこで両親との関係や過去の愚かな過ちに苦悩しながらも、雄大な自然の中で自分を見つめ、人生を前向きに進もうとする。

原作の著書「The Outrun」はスコットランド出身のジャーナリスト・作家のエイミー・リプトロットの回想録として2016年に出版された。以来10か国語以上に翻訳され、本国イギリスでは11万部以上を売り上げたベストセラーである。

主人公のローナは大学院で勉強するほど頭が良くまた努力を重ねたに違いありません。

その生活をすべて台無しにする程アルコールに浸ったのは、単に子供のころに精神を病んだ父親の姿を見たからだけではないでしょう。
もしかしたら自身も父親のようになるのではという恐れから、無意識に逃げる為だったのだと思います。

作品の中でローナが撮影地のオークリー諸島の紹介として、何億年もかけて波風によって浸食された岩場を語っていますが、海藻も約20億年前に現れた地球で最も古い生命体の一つです。ローナが冷たい海水に浸かるシーンは、こうした自然の摂理を理解し、その自然の一体となり自然回帰することで、自身について客観的に見ることができた瞬間だっと思います。
その後の荒れ狂風を楽しむシーンも然り。子供の頃以来ずっと心にひっかかっていた父親の行動を理解することによって、自身への恐れも克服したのです。

そしてそのローナ役をシアーシャ・ローナンが演技してくれて本当によかったと思います。
映画によっては、役どころよりもその役を演じている俳優自身がどうしても全面に出て、いまひとつ本髄に触れることが出来ないことが多々あります。が、『the outrun』はシアーシャ・ローナンのおかげで、ローナがどこにでもいる一見普通に見える人であり、また、程度の差はどうあれ心の中で葛藤を抱える自身を重ねる人も多いのではないでしょうか。
シアーシャ・ローナ以上に、ローナを十分に描き切ることができる女優はそういないかと思います。

★★★★★

Nora Fingscheidt : ドイツの監督/脚本家
1983 年ドイツのブラウンシュヴァイク(独: Braunschweig, 英: Brunswick)に生まれる。ドイツとアルゼンチンの二か国で教育を受ける。
2003年ベルリンで有志で組織した映画制作会社を設営。2005年ショートフィルムを制作後2008年舞台演出の学校に通いながら、ショートフィルム制作を続ける。2014年に制作した15分間の『Boulevard’s End』は数か国の映画祭で上映された。2017年の『Without T his World (Ohne diese Welt)』で受賞。2019年公開の長編『システムクラッシャー』で注目を集めベルリン映画祭で映画賞を受賞。2009年サンドラ・ブロック主演の『消えない罪』を監督。
現在ハプスブルク在、息子が一人いる。

Saoirse Ronan、アイルランドの女優。Saoirseはアイルランド・ゲール語で自由を意味する。
1994年アメリカ合衆国のニューヨークに生まれる。両親ともにアイルランド人で父親は俳優。3歳の時にアイルランドに戻る。9歳でテレドラマに出演する。2007年公開の『つぐない』でアカデミー助演女優賞にノミネートされ注目を集める。2009年NZのピーター・ジャクソン監督作品『ラブリーボーン』、2015年『ブルックリン』を主演し、数多くの賞を受賞。ブロードウェイの舞台やエド・シーランのミュージックビデオに出演後、2017年グレタ・ガーウィグの初監督作品『レディ・バード』、そして2019年、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』に主演し、4度目となるアカデミー賞、5度目の英国アカデミー賞にノミネートされるなど、名実ともにアイルランドを代表する女優である。2024年7月に、2018年公開の『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』で共演したジャック・ロウデンと結婚。この『アウトラン』では製作にもかかわっている。

個人的にシアーシャ・ローナンの可憐で楚々とした雰囲気が好きで、彼女が出演している映画は必ず観るようにしています。
私生活でもプライバシーを大事にしあまり公には出てこないそうです。そういう所もいいですよね。

これまではどちらかというと、代表作品『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』のジョー役のように、お隣の家の良いお嬢さん的なイメージがありましたが、この『 The Outrun 』ではもっと踏み込んで人間の弱さを余すところなく見せてくれるなど、演技の実力のほどを見事発揮してくれました。

主演女優賞にノミネートされることは間違いないでしょう。

Ngā mihi
wonderer

ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。