ベストドキュメンタリー映画 「For Sama」( 娘は戦場で生まれた )

Kia ora

いつもニュージーランドに関する記事を紹介していますが、新たに映画の批評も加えることにしました。

映画批評の第一回目となる今回は「For Sama」( 邦題:娘は戦場で生まれた ) を紹介します。

「For Sama」( 邦題:娘は戦場で生まれた ) は、
シリアの*アレッポの戦いに巻き込まれた一般市民の心のさまと
日常生活を実直に綴られたドキュメンタリー映画です。

去年のカンヌ映画祭を始めとし、今年の BAFTA(バフタ)でもベストドキュメンタリー賞に選ばれるなど、数々の賞を受賞しています。
カンヌ映画祭では上映後、6分間のスタンディングオベイションを受けたという逸話も残っています。

去年2019年の末に劇場公開時に見逃したという方、最近DVDがリリースされてます。視聴の価値は充分にあるでしょう。

* ちなみに私は ( ニュージーランドの ) 図書館でこのDVDを借りて鑑賞しています。

アレッポの戦い(アレッポのたたかい、英語: Battle of Aleppo )は、シリア内戦において2012年から2016年にかけてシリア最大の都市アレッポで行われた戦闘。シリアの政府軍と反体制派がアレッポ市内を東西に分断、長期に渡り激しい軍事衝突を繰り返したが、最終的に政府軍が勝利を収めた。
( 出典:ウィキペディア )

 概要


タイトル :
 For Sama( 邦題:娘は戦場で生まれた )
監督/製作/キャスト : Waad Al-Kateab
                               ( ワアド・アルカティーブ )  
共同製作者 : 
 Edward Watts (  エドワード・ワッツ )
製作会社 :  The frontline film company ( 英 )
ジャンル : ノンフィクション
賞 :
● カンヌ映画祭:最優秀ドキュメンタリー賞),  2019
● 
Grand Jury Award & Audience Award
(Best Documentary), SXSW 2019
● Special Jury Prize (International Feature Documentary), Hot Docs 2019
● BAFTA Award for Best Documentary 2020

 あらすじ


「For Sama」( 邦題:娘は戦場で生まれた ) は、1人の苦悩する女性の視点で、日常的に空爆を受けるシリアのアレッポの街と人々の様子が綴られたドキュメンタリー映画です。

2011年、長年続くアサド政権の圧政に対し、シリア最大の都市Aleppo ( アレッポ ) でも自由軍を先導にした市民による反対デモ行進が起こりました。

当時マーケティングを専攻し将来ジャーナリストになる夢を抱いていた 大学生の Waad Al-Kateab ( ワアド・アルカティーブ ) は、その模様をホームビデオで撮り始めます。

その後多くの市民がアレッポから避難する中、ワアドは民主主義が通る事を信じその経過を記録したいが為に、アレッポに残り撮影を続けます。

半ば兵糧攻めの状態に陥り日常的に空爆が繰り返されるアレッポで、ワアドはやがて結婚、出産、育児と人生の転機を迎えるに当たり、自身の決断に苦悩するようになります。

 

 感想


「For Sama」( 邦題:娘は戦場で生まれた ) の映画の特徴は、恋愛、結婚、出産、育児を経験し苦悩する普通の若い女性によって語られている点です。
また、その口調は至って短調であり、単なる戦争の悲惨さを伝えようとする一般的な戦争ドキュメンタリーとは全く異なります。

内戦が始まりアレッポで撮影を始めた一年後の2012年、ワアドは病院を設立し爆撃で傷ついた人々を救おうとする医者のハズマと恋に落ち結婚。やがて娘の Sama を授かります。

© Wikipedia ( https://it.wikipedia.org/wiki/File:For_Sama.jpg )

結婚式や出産、それから育児など人生の節目となるイベントがホームビデオでみずみずしく実写され、誰もがワアドという1人の女性の視点に引き込まれます。

その一方でロシア機による毎日のように繰り返される空爆、犠牲者となった子供たちの死、家族や病院の医師らの絶望感に打ちひしがれた様子、廃墟となった街並みも目の辺りすることになります。

Damage in Christian quarter of Aleppo in Syria /Copyright © Aid to the Church in Need from Wikimedia Commons

自由と平和を願い、いつか空爆が無くなる日を信じ、生まれた娘に空という意味の SAMA という名前を付けたアワドでしたが、いつしかアワド自身もそのような状況の中に娘を生み育てる決心をした事を後悔し苦悶するようになります。

この映画では、正常ではないアレッポの人々の日常生活やワアドの母としての苦しみが淡々と語られており、世界の反対側に住んでいる私達には現実とはかけ離れてた世界であるように映ります。

が、同時に、この戦争は現実に起こった事であり、しかも僅か数年前の出来事であることを思い知ると、言い難い恐怖感に襲われます。

現代社会では、戦争はどこにでも存在する街に、普通の人々に、もしかしたら自分自身の身にいつ降りかかってもおかしくはないと。。。

私個人の評価は★★★★★、5つ星です。 

 ワアドのその後


「For Sama」( 邦題:娘は戦場で生まれた ) の製作者兼主人公でもあるワアド
は、夫のハズマと
て2人の娘のサマと共にトルコに脱出。その後、この映画の製作会社の援助を受け難民としてイギリスのパスポートを取得。現在もイギリスに住んでいます。

イギリスへの移住については、ワアド自身が、未だトルコで先が見えない生活を強いられているシリア難民が多い中、幸運であると語っていますが、実際にはその道のりは楽ではなかったようです。

その理由は、一年間のトルコに滞在中に出産した次女のタイマが関係しています。トルコにあるシリア大使館は、2人が反政府側に付いていたいう理由でタイマの出生届やパスポートなどを作成してくれず、仕方無くタイマをトルコに残したまま三人でイギリスに難民として移住。タイマをイギリスに迎え入れるようになるまで、半年間の間家族別々の生活を余儀なくされました。


現在は、ある雑誌のインタビュー記事を読む限りでは、アワドは奨学制度を受けて大学院でマスコミを、ハズマも大学院で医療関係を専攻している模様です。
長女のサマは、すっかりイギリス人訛りのアクセントで英語を話すなど、子供たちはすっかりイギリスの生活に溶け込んでいますが、ワアドとハズマはいつかは故郷のシリアに戻りアレッポを再建したいそうです。

その日が来ることを切に願うばかりです。

Ngā mihi
wonderer


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1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。