ニュージーランド政府は突如賃金平等法を改正する法案を通し、怒濤のような追及を受けています。
賃金平等法の改正により、高校教師など女性が多い職種の給与体系は、漁師など男性が中心の職業のものより低く抑えられたままとなりました。
この編ではその賃金平等改正法や経緯について詳しく解説していきます。
1. はじめに
Kia ora
2025年5月、たった1日とわずかの討論の時間を経て、ニュージーランドの国会では大変な法律が可決されました。
その法律は、賃金平等改正法といいます。
これまで、教育、医療、ソーシャルワークなどの社会福祉分野で働く数十万人の女性が、彼らの職業が組織的に、そして違法に過小評価されていると主張し、賃金平等を求める訴えを起こしていました。が、政府がほとんど議論を交わさず、国民の意見を聞く機会も与えずに法改正を急ぎ足で進めたため、彼女たちの訴えはすべて取り下げられました。

2. 賃金平等法とは
まず初めに、賃金平等法そのものについて紹介します。
▼ 歴史的な背景
ニュージーランドでは歴史的に、職種の「市場給与額」が公正または平等ではなく、過去または現在の賃金差別によって抑制された額に設定されているケースがあります。特に女性が主流の職種においてその割合が高いと言われています。
平たくいうと、女性が多い教職や図書館員、看護婦の給与は、道路工事や漁業など肉体労働を伴う男性が主流の職種より概ね低いということになります。
これまで賃金差別をなくすため、
-1961年、政府職員同一賃金法により、公務員は男女を問わず、同一の職務に対して同一額の賃金を支払うことが義務付けられる
-1972年に同一賃金法が制定され、民間企業にも適用
されました。

▼ 2020年の賃金平等法
が、同一賃金法の「賃金平等」の概念が法律上明確となったのは、2020年に賃金平等法が制定されてからでした。
この賃金平等法は、同等の技能、責任、努力を必要とする職務には、労働力の性別構成に関わらず、同等の賃金が支払われることを定めます。
この法律により、男女差別によって報酬が抑制されていると感じる考える人は、個人で、あるいは(より一般的には)労働組合を通じて、平等賃金の請求が可能となりました。
そして、平等賃金を請求する前提の一つに、職業が
「現在または過去に、従業員の約60%以上の労働力が女性である」
の条件を満たすことでした。
以来、数々の交渉を経て10万人以上の人々の平等賃金請求が認められ、給与が引き上げられました。
恩恵を受けたのは、学校事務職員、図書館員、老人ホーム職員、メンタルヘルスおよび依存症支援従事者、マタウランガ・マオリおよびティカンガ・マオリ、医療従事者、介護・支援従事者、ソーシャルワーカーなどの職種です。

3. 2025年の賃金平等改正法について
▼ 内容
そしてその賃金平等法が今回改正されたという訳です。
現在のナショナル党、NZファースト党、そしてアクト党の3党からなる連立内閣により、国会で十分に時間をかけて討論されることもなく、半ば強制的に改正案が可決されました。
改正された内容はいくつかありますが、最も打撃的を与えているのが
女性中心の労働力の定義を60%から70%以上に引き上げ
です。
この法改正により、現在審査中であった33件の賃金平等請求が取り消されました。
対象となった業種は、女性の率が63%である高校の教師、68%の保護観察司の他に、ホスピス職員、プランケットの看護師、検査技師、助産師、ソーシャルワーカー、ユースワーカー、保護観察官、矯正心理学者が含まれています。
また、請求件数の少なくとも10件はニュージーランド看護師協会が提起したものだと言われています。
▼ 背景
この新しい法律「賃金平等改正法」を提起したブルック・ヴァン・フェルデン労働関係大臣は、
これまで「過小評価の確固たる証拠」や、賃金格差が「性別に基づく差別やその他の要因による」ことを証明しなくても、賃金平等請求を進めることができた。また、賃金平等請求は公共部門に集中しており、和解金として王室がこれまでに年間17億8000万ドルを支払っている。
今後は現存の請求は一旦停止後に、再提出、そして新たな厳格な要件に照らして審査される必要がある
と、記者会見の席で述べています。
イアン・ラクソン首相(ナショナル党)はこの改正は来たる5月22日に発表が予定されている2025年度のBUDGET ( 国家予算)の財源確保の為に行われたことをを否定しています。
が、アクト党党首のデイビッド・シーモア財務次官は、この法改正により政府は「数十億ドル」の節約になると述べ、担当大臣のブルック・ヴァン・フェルデン氏を「BUDGET ( 国家予算)を救った」と称賛する発言をしています。
今回の改訂は、国家予算編成にあたっての資金組みの為であることは間違いないようです。
▼ 反対意見
ご想像がつくように、今回の賃金平等改正法に対して野党を初め多くの団体が猛烈に非難しています。
2025年度のBUDGET ( 国家予算)の発表日が5月22日に設定されているため、議会での緊急性を利用して法改正が急いで進められていたことと、そして女性が政府の財政均衡のために犠牲になったとして、人権侵害に当たるとも声も出ています。
早速全国各地で反対のデモが行われている他、その後の国会も大荒れでしまいには議員が女性を罵る言葉を発し世間を騒がせました。
(出典)
https://www.thepost.co.nz/nz-news/360688468/what-equal-pay-act-changes-really-mean-women
https://www.stuff.co.nz/politics/360679022/five-things-you-need-know-about-surprise-pay-equity-change
4. あとがき
高校の先生の給料が肉体労働者より低いだなんて、驚いたを通り越して信じられないと言ったほうがあっているかと思います。
昔地元の高校でアシスタントをしたことがありますが、先生にはまず休憩時間がほとんどありません。それに提出物の添削やテストの点数付け、レポート作成など時間外に自宅で行う作業も山ほどあります。そして生徒や保護者の前では常に模範的な態度をとらないといけないことは言うまでもありません。
何より、子供の未来を作っているのです。
それなのにあんまりです。
尚、肝心の2025年度の国家予算( BUDGET )について別の編で特集を組んで紹介しています。
↓ をクリックしてご覧ください。
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