テパパのアートギャラリー : 日本のお香、ロマンチックな風景画、マオリアートが一堂に会す

 

Kia ora

ニュージーランドの首都ウエリントンにある国立博物館テパパでは、夏のホリディシーズンに向けて新しいエキシビションが次々にオープンしています。
中でも、4階と5階のアートギャラリーでは、日本のテーマを基にした斬新なコンセプト作品の他、ニュージーランドの美しい風景画、それからマオリアートなどが一堂に会し見所がたくさんあります。
テパパは今回が初めてという方は勿論、すでに訪れたことがあるという方も再度訪れてみてはいかがでしょうか?

この編では、テパパのアートの新しいエキシビション『Iris Iris Iris 』、『SHE’S TALKING TO THE WALL』、『HIAHIA』、それからコンテンポラリーマオリアート『 Mataaho 』を紹介していきます。

 

『 Iris, Iris, Iris 』

 

『Iris Iris Iris (アイリス アイリス アイリス ) 』はニュージーランドの アーティストDane Mitchell ( デイン・ミッチェル)  による視覚と嗅覚に訴えるマルチアートです。

この『Iris Iris Iris (アイリス アイリス アイリス ) 』を一言で言うと、目に見えないものの表現と言えるでしょう。
しかも、思わず頭をひねってしまいそうな一風変わった道具とともに表されています。
具体的に作品の中から三つのオブジェを取り上げて紹介します。

① アーティスト自身の庭に咲く植物の花の名前以外にも、眼球の虹彩や、カメラの絞り部分、それからギリシャ神話に登場する虹の女神の名としても使われるアイリス。そのアイリスの花と、オリンパスカメラ、蛇の目傘の三つを対象に、アロマの元素を抽出するクロマトグラフィーの実験を行い、アロマ以外の目に見えない分子の存在

② 1,000本近くの巨大な線香。昔からお香は匂いを放つだけでなく時間の経過を図る目的でも使われていることから、お香に刻まれた人の記憶や歴史

③ 日本で伏籠(ふせご)として使用されるお香。長年使われた道具などに付喪神(つくもがみ)が宿るという言い伝えがあるように、お香に存在する精霊

現実、非現実の双方を踏まえた『アイリス アイリス アイリス』、こうして一つ一つ検証しながら鑑賞すると面白いかと思います。

アーティストのDane Mitchell ( デイン・ミッチェル) は1976年オークランド生まれ。2012年にオークランド工科大学にて哲学系修士号を取得。その後、ドイツ学術交流会(DAAD)の奨学金を受けてベルリン留学。2019年にはニュージーランド代表としてベネチア・ビエンナーレに出展しています。

尚、この『アイリス アイリス アイリス 』は、2017年日本の森美術館にて世界各地のアーティストと実験的な創作プロジェクトとして製作されました。

『SHE’S TALKING TO THE WALL 』

 

『SHE’S TALKING TO THE WALL』と呼ばれるカーテンのように吊り下がった作品では、1,000個にも及ぶ小さなオブジェが目を楽しませてくれます。

陶器で出来た風鈴のような形の小さなオブジェは、よく見ると一つ一つのデザインや色合いが異なります。

すべてのオブジェはニュージーランドの女性アーティスト、Kate Newby (ケイト・ニュービイ)自身の手で製作。粘土を屋外の土の上に置いて泥や石、砂などを絡ませた後に、指や道具を使って形が整えられています。
アーティストが「シチュエーションとのコラボレーション」と言うように、それぞれのオブジェに制作された場所の記憶が刻まれており、作品全体には一種の人生の地図の意味合いが含まれています。

一つ一つのオブジェに個性があり、どんな場所でどのような材料を使って作られているか考えを巡らせながら鑑賞できることでしょう。


Installation view of Kate Newby, SHE’S TALKING TO THE WALL, 2012-2021 in Kate Newby: YES TOMORROW at Te Pātaka Toi Adam Art Gallery, 2021. Photo by Ted Whittaker and courtesy of Te Pātaka Toi Adam Art Gallery

アーティストのケイト・ニュービイは、現在テキサス在住。テパパ博物館では今回が初めての展覧です。

 

『HIAHIA』

 

『HIAHIA』 はマオリ語で欲する、望むという意味があります。そのHiahia のタイトルが対いたギャラリーでは、 ニュージーランドの大地や自然に対する、原住民のマオリ族と西欧社会の二つの異なる価値観が対照的に表されています。

マオリ族のアーティストの作品では、whenua ( フェヌア) と呼ばれる大地は先祖と結びつけるものであり、時を越えて帰属意識をもたらす意識が全面に表現されています。一方、西欧人画家によって描かれたニュージーランドの風景画は、土地に対する美的感覚に加えて、アーティスト自身の想像の部分を加えロマンティックに描かれています。

例えば、下の写真の一枚目の写真、マオリの女性アーティストの「Taku Whanau, Motairehe, Aotea 」。Great Barrier Island ( グレイト・バリアー・アイランド)を、力強い線と素朴な色使いで大胆に描いたコンテンポラリー作品です。対して2枚目の写真、アイルランドからの移民 George O’Brien (1821-88)による Otago landscape 1870(オッタゴ 風景画)は、柔らかい線と淡いパステルカラーを使い、西欧人のニュージーランドに対する夢を膨らませました。

写真三枚目のTony de Lautour(トニー・ド・ラトーア)による「Send offという作品で、帝国画家が描いたオリジナルの風景画のプリントの上書きされています。山々は人間の頭に、それからライオンのような獣がニュージーランドの北島と南島をマオリ人のカヌーに投げています。これは植民地化に対する批判と憤りをユーモア交じり描かれています。

 

マオリアート『Mataaho』

 

最後はアートギャラリーの4階に新たにオープンした、ニュージーランドの4人のアーティスト集団、『 Mataaho (マタアホ)』によるマオリアート『Te Puni Aroaro 』を紹介します。

『Te Puni Aroaro 』展では、4人の女性マオリアーティストが過去10年に渡って共同製作した大型スケールの6点が披露されています。どの作品もマオリ族に伝わるリネン(亜麻)を織る手法を使って編まれており、マオリ神話の天地創造、タニファなどが表現されています。
が、車のシートベルトや、ステインレス・スチールのバックル、塩化ビニールの防水シートなど身の回りにある材料が用いられ、ユニークでコンテンポラリーな作品です。

ギャラリー入り口に展示されている「Takapau ( タカパウ) 」は、200平方メートルにも及ぶ車のシートベルトの編み込みが頭上に広がる大型作品です。そのスケールもそうですが、幾何学的な織り込み模様の間から光が漏れ、まるで宇宙空間の中の家の中にいるような錯覚に陥ります。

Mataaho Collective, Takapau (detail), on display in Mataaho Collective: Te Puni Aroaro exhibition. Photo by Yoan Jolly, 2022. Te Papa

Mataahoの作品は、これまで ホノルルやロンドン、パリ、フランス、オーストラリアなどの国で展示され絶賛を浴びています。
この機会をお見逃しなく。

 

アート会場/テパパ情報

 

開催期間  :
『Iris Iris Iris 』2023年9月迄
『SHE’S TALKING TO THE WALL』 2023年5月迄
『HIAHIA』2024年5月迄
『Mataaho』2023年5月迄

場所    : テパパ国立博物館4階/5階
入場料   :  無料

● テパパNZ国立博物館
場所    : 55 Cable Street, Wellington 6011, NZ
開館日  : 10時~6時 クリスマス日を除き無休
入館料  : 無料
HP     : https://www.tepapa.govt.nz/

 

あとがき

 

ニュージーランドのマオリアート、特にマオリ族の文化や慣習を継承しながらも独創性に溢れるコンテンポラリーアートは、ニュージーランドの過去と現在の歴史が刻まれていると言っても過言ではないと思います。
なかなか他の国では見ることが出来ませんので、ウェリントンを訪れた際は、テパパで鑑賞されることをお勧めします。

Ngā mihi
wonderer

ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。