ニュージーランド代表のラグビーチームオールブラックスが試合前に踊ることで世界的に有名なハカ。
今月初め、そのハカや先住民のマオリ族の間に伝わるワイアタ(歌)を全国規模で競う競技会が行われました。その競技会は matatini ( マタティ二 ) と呼ばれ、単なる競技会としてだけでなく、マオリ文化の祭典として多くのファンを魅了しています。
この編ではそのマタティ二について、そして今年見事優勝したチームについて紹介します。
1. はじめに
Kia ora
ニュージーランドでは、学校や職場、地域など色々な集いの場でグループを作って、kapahaka ( カパハカ ) と呼ばれるマオリ族伝統の歌や踊りを練習します。そして pōwhiri( ポーフィリ:歓迎式 ) や冠婚葬祭、学校の学芸発表会など様々な場面で披露します。
今回紹介している matatini (マタティ二)は、そのカパハカを行うグループのエリート中のエリートが演技を競う全国大会です。
ニュー・プリマスで行われた今年2025年のマタティ二では、過去最高の55のカパハカ・グループが5日間に渡ってパフォーマンスを披露しました。
総観客数は7万人以上、特に決勝戦が行われた最終日は15,000席の全席が数か月前に完売。そしてストリーミングには何と2千万人以上がアクセスするなど、例年以上に盛り上がりました。
そのマタティ二ついてこれから詳しく紹介していきますが、このブログの下の方につけている優勝したカパハカ・グループの動画は忘れずにクリックしてご覧ください。マタティ二の醍醐味が味わえるかと思います。
2. MATATINI (マタティ二)とは?
ここでは、マタティ二にはどんな意味があるのか、そしてその特徴などを砕いて説明していきます。
〇 マタティ二の意義
マオリ文化の美しさや核となる価値を祝い、tikanga maori (マオリの価値観、文化)においてとても重要な役割を果たす。
それゆえ、カパハカはマオリ族のアイデンティティの一つであり、ニュージーランドのユニークな文化に貢献するものである。
〇 特徴
- フルネームは、Te Matatini National Kapa Haka Festival
- マオリ族の歌やダンスを含んだパフォーマンスアート/演劇芸術を競うニュージーランドの全国大会
- マオリ語での意味はたくさんの顔
- 二年ごとに、異なる場所で数日にかけて開催。審査により選ばれたグループは最終日に再度パフォーマンスを行い、同日の夕方に優勝者が発表される
- 主催者のThe Te Matatini Societyは1960年代に発足し、数々のマオリ族やポリネシアグループの大会のスポンサーとなった。マオリ族の演劇芸術に特化して長期的に育成することを目的に1972年に現在の形となる
- 今年2025年の開催地は、ニュー・プリマスで、2月25日から3月1日まで地元のTe Kāhui Maungaがホスト役を務めた。
- 次回の2027年の開催地はネルソンである

3. パフォーマンスについて
マタティ二の舞台では、各カパハカ・グループは次のような規定にそったパフォーマンスを舞台の上で行います。各チームの時間は25分と決まっており、すべてのグループがパフォーマンスを終えるのに数日かかります。
審査委員による審査の結果選ばれた12のグループが再度パフォーマンスを競い、夕方にはトップ3位が発表され、授与式が行われます。
規定されているパフォーマンスには6つの種類があります。
- whakaeke (ファカヘケ:入場の歌)
どの部族でどこから来たのか、そしてパフォーマンスの目的を表現。ふんだんな踊りとアクションが用いられ統一性を要する - mōteatea (モーティアティア:伝統的なチャント)
部族に伝わる伝統的なチャント、最近は新しいチャントも歌われることが多い - waiata-ā-ringa (ワイアタ・ア・リンガ:アクション付きの歌)
歌詞を強調するために、手や体だけでなく顔の表情や目の動きを使って表現する - Poi(ポイ:紐がついたボール踊り)
紐がついたボールを巧みに動かして、美しさと優雅さを表現 - haka ( ハカ:武闘の踊り)
陽炎を起源とする動き。最近は政治やマオリ社会における問題も表現され、ニュージーランド人のアイデンティティともいわれる。もっとも人気のあるパフォーマンスである - whakawātea (exit)
締めとなるパフォーマンス。グループのアイデンティティや来た目的を再度明確にし、またイベントのホストに感謝の念を伝える
この他にも男性、女性のそれぞれのリーダーの役割や、衣装なども採点の条件となっている。

* ワイアタ(歌)とハカについての詳細はこちらをご覧ください。
4. 2025年の優勝グループ
今年2025年のマタティ二では、史上最多の55のカパハカ・グループが4日間に渡ってそれぞれ25分づつのパフォーマンスを行い、その中から選ばれた12のグループが最終日の5日目、3月1日の土曜日に再度舞台で競演しました。
そして見事栄冠に輝いたのは、ロトルアのNgāti Whakaue (ナーティ・ファカウエ)部族のカパハカ・グループでした。
ナーティ・ファカウエ部族のカパハカ・グループは、ポイの演技の中では第二次世界大戦中に屈指の軍人で昨年11月に他界した同部族のTā Robert Gilliesを追悼し観衆の涙を誘った他、Hoari Karauna (ホアリ・カラウナ)と呼ばれるハカでは、マオリ軍人の家族にメダルを渡すことを拒否したイギリス王室を批判し、観衆の共感を呼びました。
一部ですが、ナーティ・ファカウエ・カパハカ・グループのパフォーマンスが下の動画に納められていますので、是非クリックしてご覧ください。
動画の最後の部分の授与式では、トロフィーに値する waka huia ( ワカ・フイア 宝箱)を手渡す去年11月にマオリ王室のクイーンを継承したばかりの若干28歳のTe Puhi Ariki Ngawai Hono i te Po Paki (テ・プヒ・アリキ・ナーワイ・ホノ・イ・テ・ポー・パキ)の姿も見ることができます。
尚、二位には同じくロトルアのNgāti Rangiwewehi ( ナーティ・ランギウェウェヒ)部族が、そして三位にはオークランドの Ngā Tūmanako ( ナーティ・トューマナコ)が入賞しています。
また今年新しく設けられた観客が選ぶ大衆賞 Kohine Ponika ( コヒネ・ポニカ ) にはマールボロー地方の Te Kuru Marutea ( テ・クル・マルテア)が選ばれました。
5. あとがき
今年のマタティ二は、その規模もさることながら、会場では中国語も含めた6カ国語に通訳されるなど近代化したシステムが話題となっていました。
が、それにも増して、舞台上で女性のリーダー役をトランズジェンダーによって行われたことに注目が集まりました。
本人はパフォーマンスの後のインタビューで「自分を信じ、そして他の同じような状況にあるマオリ人の手本になりなかったから」と語り、夕方のニュースでも報じられました。
昔ながらのストイックな規律が重んじられるカパハカですが、こうした時代に合わせて進化しているという点においてもニュージーランドらしいと思います。
次回は2年後にネルソンで行われます。こうした点に着目して観たら一層面白くなることでしょう。
Ngā mihi
wonderer