人種差別社会が色濃く反映、残念なオーストラリアの国民投票の結果

Kia Ora

今回はニュージーランドではなく、お隣の国オーストラリアで起こった出来事を特集しています。

その出来事とは、『ボイス/議会への声』の設置の承認に関し、10月14日に行われた国民投票のこと。国民投票で『ボイス/議会への声』が可決すれば、オーストラリアの歴史上初めて先住民族が国家として認められるというものでした。

果たしてその『ボイス/議会への声』の国民投票の結果はどうだったのか、国民投票に至るまでの歴史的背景を踏まえながら詳しく解説します。

   はじめに

ニュージーランドの総選挙や、イスラエル、パレスチナ紛争の影響で影が薄くなった感がありますが、お隣のオーストラリアでは先住民アボリジニ族を国として認めるかどうかが国民投票という形で国民に問いかけられました。

マオリ語を公用語にもつなど先住民族の文化と西欧文化が共存しているニュージーランドからしてみると、今頃何?と思ってしまいます。

ですが、オーストラリアで先住民の権利を国として問うのは史上初めての出来事である事実、そしてその国民投票の結果にも、オーストラリアの事情をよく知らない筆者は驚愕したのでした。

この編は白人至上主義であることが証拠付けられたオーストラリアに対する、筆者のつぶやきになります。最後まで読んでいただければ嬉しく思います。

  『ボイス/議会への声』

  ▼『ボイス/議会への声』とは?

『VOICE:ボイス』は、「Voice to Parliament」の略で「先住民諮問委員会」を指し、一般では『議会への声』と呼ばれています。 

『ボイス/議会への声』の主旨は、先住民族のアボリジニとトレス海峡諸島民に関わる問題や法律について政府に助言をすることにあります。

この『ボイス/議会への声』を設置することを可能にする新たな規定の承認をオーストラリア国民に求めるために、国民投票が行われました。

平たく言うと、『ボイス/議会への声』を通じてオーストラリアの憲法を改憲し先住民族を認めるかどうかを、国民に問いかけたということです。

『ボイス/議会への声』が国民投票で可決されれば、先住民族の生活に関する法律や政策が決定される際は、先住民がそのテーブルについて会議に参加することができます。

尚、『ボイス/議会への声』の権限は、先住民に関わる法律を起草する際に先住民を代表して議会に助言するのみです。法律を可決したり、決定に拒否権を行使したり、資金を配分することはできません。

オーストラリアでは憲法の変更は議会には権限がなく、唯一の方法はリファレンダムと呼ばれる国民投票です。

今回の国民投票はオーストラリアでは1999年以来の出来事です。42歳未満のオーストラリア人にとっては、人生最初の国民投票です。

  ▼ 背景

オーストラリアでは2017年に、アボリジニやトレス海峡諸島民などの先住民族を代表するグループが、ウルルに集まり、オーストラリア国民に「Uluru Statement from the Heart(心からのウルル声明)」を発表しました。

「心からのウルル声明」は、先住民とオーストラリア国民の融和と一致を目指すことを趣旨とし、オーストラリア社会を改革する三つの柱からなる提案事項です。
その内の一つが『ボイス/議会への声』でした。

1901年1月1日に施行されたオーストラリアの憲法では、アボリジニやトレス海峡諸島民の土地に対する先住権と管理する権利は承認されていません。

このため、先住民族は憲法上の承認されるために、何十年にも渡りオーストラリアの法律、政治システムの改革に取り組んできました。

「心からのウルル声明」の共同議長であり、ニューサウスウェールズ大学の国際人権弁護士であるメーガン・ジェーン・デイビス教授は、

 
『ボイス/議会への声』はオーストラリア国民と大陸を「国家の完全な表現」として認めることであり、国がその歴史の中で初めて「前進」することを可能にするものでもある
 
と述べています。
 

現在オーストラリアでは、アボリジ二とトレス海峡諸島民の先住民族は国の人口2600万人のうち3.8%を占めます。

アボリジニは約6万年前からオーストラリアに暮らしているものの、現在のオーストラリア憲法では全く言及されておらず、また、オーストラリア国内で最も不利な状況に置かれていることがあらゆる社会経済指標で示されています。

不利な格差を埋められない理由の一つとして、政府がコミュニティーに関する法律や政策を作る際に、コミュニティーと協議することがほとんどないことが挙げられています。

メーガン・ジェーン・デイビス教授によると、
「海外では民主主義制度の元、『ボイス/議会への声』と同じようなモデルの導入に成功しており、政府が先住民族に関する法律や政策を作る際は先住民族の声を聞くことが保証されている」そうです。

   リファレンダム/国民投票

上述の背景から、10月14日にオーストラリアで国民投票が行われる運びとなりました。

8章128条からなるオーストラリア憲法に、第9章129条「アボリジニとトレス海峡諸島民の認識」を追加し、アボリジニとトレス海峡諸島民が「最初のオーストラリア人」であるとし、彼らに関する意見を議会に反映させる機関『ボイス/議会への声』を新設することを問うものでした。

実際の投票用紙に書かれた内容は、

法案:アボリジ二およびトレス海峡諸島民の声を確立し、オーストラリアの先住民族を認識するために憲法を改正します。あなたはこの変更案に賛成しますか?

というもので、国民はこの質問に「YES」か「NO」で回答しました。

オーストラリアでは有権者は投票することが義務付けされており、その数は1700万人以上にのぼります。

国民投票が可決されるためには、全国だけでなく、過半数の州で51%の「賛成」票を獲得しなければなりません、つまり、オーストラリアの6つの州のうち、少なくとも4つの州で賛成票を獲得する必要があります。(ACTとノーザンテリトリーは、全国における過半数にカウントされますが、州としてはカウントされません。)

   国民投票の結果と要因

 ▼ 結果

賛成39%、反対61%で否決

すべての州において反対票が過半数を占めました。
メルボルンやキャンベラなど大学以上の資格を持った有識者が多い都市部では賛成票が50%を占めたものの、都市部から離れたところほど反対票が投じられています。

 ▼ 要因

国民投票をめぐって今年初めの世論調査で賛成が上回っていましたが、専門機関の権限が不明確である、先住民を優遇することで国民の分断に繋がるという理由で、反対の世論が高まっていました。

また、先住民が過度に優遇され、自分たちに使われる予算が少なくなるのではないかと危惧する人や、自分たちが苦労して築き上げてきた社会が先住民の土地を取り上げてできた社会だとは認めたくない人が多いことも挙げられます。

   投票結果への反応

先住民の間では「この大陸に来てまだ230年余りしか経っていない人々が、この地を6万年以上に渡り住んでいる人々がいる事実を拒否するとは道理が間違っている」という声が強い中、『ボイス/議会への声』の発案者のメガン・デイビス教授は、「まだ長い道のりがあるが、無力と声なき声を口にしましたこの日は歴史的に残る日」とコメントを発表。

そして2022年5月の総選挙時『ボイス/議会への声』を労働党の公約に掲げていたアルバニージー首相は、「望んだ結果にはならなかったものの、今回の結果を受け入れ、先住民のための新たな改善策を模索していく」と記者会見の席で述べました。

一方、野党である自由党のピーター・ダットン党首は、「この国にとって良い結果」だと結果を歓迎しています。

 

   アボリジニ人の略史

約6万年前  アボリジニ人が移住
約2500年前 トレス海峡諸島民が移住

1520年代  ヨーロッパの探検家が探索
1770年  
イギリスのキャプテン・クックが上陸、アメリカに変わる流刑植民地となる。
その後80年間でイギリスから約16万人の囚人とそれ以上の数の一般市民が移住。

1891年 シドニーで連邦政府結成の会議開催
1901年  「オーストラリア連邦」が誕生
1927年   計画都市として首都キャンベラが建設

1962年 アボリジニ人に選挙権が与えられる
1967年 オーストラリアの市民権が与えられる
1972年 土地の所有権が承認される


1990年 
ATSIC(アボリジニ・トレス海峡島嶼民委員会)と呼ばれる政治組織が特別に承認
2004年 
汚職問題などでATSIC解散。事実上アボリジニ独自の政治組織は終焉


2008年 
ケビン・ラッド首相が先住民アボリジニに対して長年与えた不当や屈辱に対して演説中に6回謝罪。歴史的な謝罪として国民がテレビ中継に釘付けとなる
2017年 「心からのウルル声明」を発表

   あとがき

ニュージーランドとオーストラリアにヨーロッパ人が入植した時期は差ほど変わりありません。

ですが、それぞれの国における現在の社会の様式は180度と言ってもよいほど大きく異なります。

ニュージーランドは、大英帝国王室とマオリ族の間で交わされた『ワイタンギ条約』を現在も尊重し、マオリ言語や文化を継承しながら西欧文化と共存を図るユニークな国家で、また国民がそれを誇りとする国です。

かたやオーストラリアは白人至上主義がまかり通る振り社会。未だに最初にオーストラリアに入植した人はイギリスのキャプテン・クックと答える人が過半数を占めると言います。
信じられないことです。
Shame on you, Australia !!  

* ニュージーランドのマオリ族の土地の権利などに対する運動と社会について詳しく紹介しています。比べて読んだら面白いかと思います。

 

* また、オーストラリアの市民権について興味がある方は、こちらもどうぞ。



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ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。