かつて幻の鳥と言われたNZのタカへ、奇跡の復活に向けて

Kia ora

大きなくちばしと鮮やかな羽毛が特徴の飛べない鳥タカへ。
タカへはニュージーランドでしか見られない固有種です。過去に絶滅宣言が出された後に再発見、一躍世界中の注目を浴び、時の人ならず時の鳥となったことがあります。

そのタカへが今度は野生に戻され、奇跡の復活に向けて一歩を踏み出しました。

この編では、世界が注目するタカへとその先駆的な保護活動について紹介していきます。

1.タカへの特徴

日本にお住まいの方には勿論ですが、ニュージーランドに住んでいても、タカへのことは聞いたことはあるけどどんな鳥?と思われる人は多いことでしょう。そこで簡単にタカへの特徴をまとめてみました。

  • 学名:Porphyrio hochstetteri。ツル目クイナ科。かつてはノトルニス(Notornis)と呼ばれた。マオリ語でTakahē 意味は、足をどんどんと踏みつける行為を指す
  • 先史時代から生きているNZの固有種。一度絶滅したと思われていた。現在も絶滅危惧種
  • 翼はあるが飛べない、その代わり地上生活に適した太い脚を持つ。翼は求愛や相手を威嚇するときに使われる
  • 全長50-63cm、体重2-3kgニワトリくらいの大きさ。上下にある厚い赤い色のくちばしと鮮やかな青や緑色の羽毛が特徴的
  • 山林や森林の草地に単独または家族単位で住む。主食は植物で、このため糞が大きく1日に排泄する糞の量は9mにもなる
  • 繁殖期はNZの春(10-12月)寿命20年前後。

2.タカへ絶滅から再発見

実はタカへは絶滅したと信じられた時期があります。
それが一人の熱心なファンにより再発見されたのです。奇跡的な発見として世界中の鳥類ファンを沸かせました。
どうして絶滅したと信じられたのか、それから再発見された模様を詳しく紹介します。

2.1 先史時代から生きていた

タカへは何と1千万年以上も前にオーストラリアからニュージーランドに飛来したと言われています。そうです、もともと飛んでいたのです。が、新しい棲息先のニュージーランドはおよそ6800年万年前に他の大陸から分離し遠く離れた文字通りの孤島。そしてそこに棲息した哺乳類はコウモリと沖を回遊する鯨のみ。つまり鳥にとってニュージーランドは哺乳類の天敵が存在しない鳥王国でした。このため鳥たちは飛ぶ必要がなく地上で暮らすようになった為、翼の代わりに足が発達、やがて翼は機能を果たさなくなったり退するなどの進化を遂げ、飛べない鳥となりました。
キウイカカポなど他の飛べない鳥も全く同じ進化を辿っています。

2.2 一度絶滅したと思われていた

ですが、鳥の幸せな時代は人間の入植とともに終わってしまいます。1,000年前後に入植したマオリ族の食糧の糧となり、続いて1,800年からイギリス人が入植すると森林が開拓され次第に棲息地を失いました。また持ち込まれたネズミやいたちなどの天敵に襲われたり、狩り用に導入された鹿などの動物と競食し食糧源を失うなどの理由で、飛べない鳥の数は激減しました。
タカへに至っては1898年に目撃されたのを最後に全滅したと思われていました

2.3 熱心なファン、オーベルにより再発見

インバーカーギルのトレッキングや狩りを趣味としている 医者の Geoffrey Orbell ( ジェフリー・オーベル)は子供の頃から鳥が好きでいつも野山で野鳥を観察していました。
ことのほか絶滅宣言が出されていたタカへの関心が強く、タカへに関する本を読み漁り、タカへはまだ生息している可能性が高いと思っていました。
そして、もしまだ生息しているならば、 Murchison (マーチソン: 現在世界遺産に指定されているフィヨルドランド国立公園の奥地。テ・アナウ湖西部にあたる)山周辺の可能性が高いと考えていました。

1948年4月、オーベルが友人らと共にマーチソン山の麓にある名もなき湖の畔を探索していると、これまで聞いたことのない鳥の鳴き声が聞こえ、そして見たことのない鳥の足跡を発見。タカへがまだ生存していると確信しました。同年11月再度友人らと同じ場所を探索し、なんと二羽のタカへを発見したのです。

実際にタカへを目にした時にはとても驚いた。メンバーの誰もがとても興奮していたが、気づかれないようにタカへに忍び寄って網をかけた。おかげでもう少しでタカへの首を絞めるところだったが、逃がさないようにとにかく無我夢中だった。

と、探索隊のメンバーの1人がタカへを発見した模様をインタビューで語っています。50年間絶滅したと思われていたタカへを見つけた時の驚きは相当なものだったようです。
すぐさまそのニュースは世界中で大々的に報道されました。
そして、タカへを発見した名もない湖はオーベル湖と付けられています。

下の写真には、探索チームが捕まえた二羽のタカへを見ながら休んでいる様子が映っています。さぞかし感慨無量だったことでしょう。ちなみにこの二羽のタカへには逃げないようにリードが付けられています。念のために。

Joan Telfer, Rex_Watson, and_Neil_McCrostie_with_takahe © “Science Learning Hub – Pokapū Akoranga Pūtaiao, University of Waikato, www.sciencelearn.

3.奇跡の復活に向けて

3.1 保護活動

1948年に再発見され世界を沸かせたタカへですが、わずか数年で推定される生息数が400羽から100羽まで減ってしまいました。
その原因は、イタチに食べられていることと、競食相手の鹿が増殖し食糧源の草が不足したからです。

そこで緊急保護対策として、生存している100羽は沖合の小さな島々に移されました。移送先の島はネズミやイタチなどの哺乳類が徹底的に駆除されている鳥の聖域です。先駆的な方法として世界でも注目を集めました。
その後同じようにカカポやキウィなどの他の絶滅危惧種の鳥も孤島の聖域で保護されています。

また、保護センターでは卵の人工孵化(ふか) や飼育がDOC( Department of Conservation : 自然環境保護局)のスタッフにより行われています。
卵が孵化し雛が孵ると、スタッフはタカへのくちばしに見えるように指に赤い靴下を巻いて雛に餌を与えているそうです。

この涙ぐましい努力のおかげで生存数は毎年8%の割合で増え、今現在500羽まで伸びていますが、まだまだ絶滅危惧種として余談は許されません

 

3.2 ついに野生に戻す

そうした地道な保護活動が成果を結んで生息数の増加が安定しているので、ついに今年2023年8月23日、18羽のタカヘが野生に放たれました。
しかも南島ワカティプ湖のワイマオリ渓谷という、ニュージーランドの本土にあたります。
このニュースは世界各地でも「奇跡の復活」として報道されました。

当日タカへの巣箱を開けて野生に放った人々の中に、DOCの職員の他に地元のマオリ族 Ngāi Tahu ( ナイ・タフ)の人々も交じっていました。

タカへが放たれたワイマオリ渓谷一帯は現在はナイ・タフ族所有となっていますが、過去にこの土地を政府から取り戻すまで法廷で長年闘った経歴があります。
苦労を重ねて取り戻した土地に、昔のようにマオリの先祖と共に住んでいた鳥のタカへが戻ってきたことはナイ・タフ族にとっても感慨深い出来事でした

下の動画にはそのタカへがまさしく野生に放たれた瞬間が収められています。是非クリックしてご覧下さい。タカへが走り去る愛くるしい姿が楽しめます。

尚、先の18羽に続いてその後さらに10月に7羽が放たれ、来年初めには10羽が野生に返される予定です。
こうして野生でも数が増えて、本来の自然体系に少しでも近づくことが期待されています。

4. 見れるところ

タカへを野生で見ることは難しいですが、次のような保護施設などで簡単に見ることができます。
タカへに興味がある方は是非足を運んでみて下さいね。

オークランドのティリティリマタンギ島オークランド動物園
ウェリントンのジーランディア
テ・アナウのバードサンクチュアリ

5. あとがき

タカへの保護活動についてさらりと紹介しましたが、実際には数年がかかりの大掛かりで多くの人と時間、そして策根気と辛抱を必要とします。
カカポに至っては、鳥の聖域を作るためにある島を一度焼き払って天敵を駆除した後に植林し、元の生態系を整えた例もあります。

こうした保護活動は世界でも先駆的な方法として海外からも注目されています。

そして素晴らしいのは保護対策だけではありません。自然や環境保護について国民に、特に子供たちに対する教育も活発に行われています。子供や若い世代の自然環境に関する意識も他の国に比べてずいぶん高いのでないでしょうか。

NZの鳥については、飛べない鳥キウイカカポ、そして同じNZの固有種で面白いケアも紹介しています。併せてご覧ください。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。