NZの vape (電子タバコ) 問題と歯止め策: 中高校生5人に1人が喫煙

Kia ora

世界でも紙タバコの喫煙に対して規制が厳しい国ニュージーランドで、ここ数年若者の間で vape ( 電子タバコ )が蔓延しています。
特に中高校生にいたっては実に5人に1人の割合と言われ、大きな社会問題となっています。

これからそのニュージーランドの若者、特に10代の電子タバコ喫煙の状況や政府の対策を詳しく紹介します。

   はじめに

ニュージーランドでは2009年1月以降に生まれた子供は一生紙タバコを購入することができません。2021年に導入されたこの紙タバコ禁煙世代策は、喫煙できる年代を徐々に無くすことで、2025 年の末までに喫煙率を5%以下に抑えることを目標に掲げています。
ニュージーランドは言わずと知れた世界でも有数のアンチ喫煙国です。

ところが、この厳しい規則のおかげで若者の紙タバコの喫煙率は下がる一方で、vape と呼ばれる電子タバコの使用率が急増しています。特にティーン・エイジまで広がるほど一種の社会問題となっています。

このため、政府はここ数か月の間その歯止め策として色々な規制を発表しています。
が、ようやく重い腰上げたと言われるほど遅い対応とも言え、賛否が問われています。

果たしてニュージーランドは、電子タバコについても紙タバコ煙世代策のような世界に誇る策を講じ成功することができるのでしょうか?

*紙タバコの禁煙世代策についてはこちらをご覧ください。

   電子タバコについて

まず電子タバコについてご存知ない方のために簡単に説明します。

  1) 電子タバコとは

電子タバコは乾燥した煙草の葉の代わりに、専用カートリッジ内の液体(リキッド)を電気加熱させ、発生する蒸気(ベイパー)を吸引します。
そのリキッドにはニコチンを含むものと含まないものがあり、また様々なフレイバーと呼ばれる香りや味を持つのが特徴です。

ニュージーランドでは禁煙を助ける手段として市場に紹介されました。

値段は最初に40~60NZドルかかりますが、紙タバコに比べれば安く、1日に紙タバコを20本を吸うと年間13,000NZドル(1,040,000円相当)かかるのに対し、電子タバコは900NZドル(72,000円相当)です。

  2) 人体に及ぼす害

電子タバコは紙タバコより有害性成分が少ないと販売市場でうたわれています。が、有害性成分が少ないとしても、健康へのリスクが全くないとは言えないようです。

  • ニコチンなどの有害成分が含まれている。ニコチンは、血液の流れを悪くしたり、脳の発達に影響を与える。また強い依存性がある。
  • 成分のプロピレングリコールと植物性グリセリンは、食品添加物として広く使用されおり人体への悪影響は少ないとされていれるが、加熱して肺の奥に吸い込んだ時の安全性は保証されていない。
  • アメリカ合衆国では肺疾患のケースが多数報告されている。ビタミンEアセテートと呼ばれる成分が原因ではないかと言われている
  • 電子タバコを吸って吐き出した息が見えないため、周囲にいる喘息や化学物質過敏症を持つ人が知らず知らずのうちに呼気を吸って体調を崩す恐れがある。
  • 電子タバコのスティックが小さて味が甘いため、乳幼児が間違えて口にすると丸ごと飲み込む恐れがある。
  • 製造方法についての規制がないため品質が保証されてないものもある。

   NZの若者の使用状況

  1) 中高校生の蔓延度

さて、ここから本題に入ります。

過去20年間における10代の若者の紙タバコの喫煙率は、15%から1.1%までに減少しています。これは政府主体による国全体が一体となったキャンペーンが成功しているおかげだと言えます。

ですが、電子タバコの吸引率は、2010は0だったのに対し去年2022年には10%を記録しました。これは国民の10人に1人が電子タバコを吸っていることになります。

その中でも特に中高生については、ある医療機関が2021年に行った調査でおよそ26%の生徒が調査が行われた週に電子タバコを吸引、その内20%は日常的に使用していると回答。
さらに去年2022年にYear 10 (13~14歳)の生徒を対象にした調査では、なんと40%の生徒が電子タバコを吸った経験があると答えています。

40%とは、驚異的な数字です。

電子タバコが若者の間に、特に中高生の間で本当に蔓延していることがわかりますよね。

専門家は、効果的で具体的な対策が打たれないまま、電子タバコは水面下でとても早いスピードで若者の間に蔓延していると指摘しています。

  2) 蔓延する要因

電子タバコが10代の若者に蔓延する背景として、次のような原因が挙げられています。

  • とにかく若者の気を引くようにデザインされている。甘くて淡いフレイバーは魅力的で、容器が小さくはまりやすい。
  • 煙草をやめる道具としてではなくちょっとした嗜好品として市場に出ている。
    音楽イベントなどではトライアルできるブースが設立され、誰でも簡単に試すことができる。

 

  3)メンタリティーに及ぼす影響

電子タバコは、人体のみでなくメンタリティーにも障害を引き起こしていること指摘されています。

  • 飲酒、ドラッグ、安全でない性行為などのリスクに対する抵抗力を弱めている。
  • 頭がくらくらする感覚を楽しむ、社会的不安を和らげる目的で吸い続けやがて依存するケースもある。
  • 電子タバコを吸うためにその場を離れる言い訳を考える必要がある。ストレスや不安を解消するどころかますますストレスが生じている。

   政府の歯止め策

  1)新しい施策

このような状況を受けて、政府はすでに二項目を、そして今回新たに5項目を電子タバコの歯止め策として発表しています。

  • 18歳以下の購買と使用を禁止
  • 使い捨てのタイプを廃止

 

  • コットン・キャンディなどのフレーバーはベリーと言うように普遍的な名前に変更
  • 店舗数を現在の半分の600店舗に減らす
  • 店舗開店にライセンスの義務付け
  • 学校やマラエから300m以内の圏内の開店禁止
  • 未成年への販売に対しての罰金額を増額


政府は、これらの新しい施策により、ティーン・エイジの電子タバコの供給源を断つ目論見です。

 

  2) 反論

上述の政府の施策に対し、各団体から次のような反論が出ています。

  • 過去二か月に70店舗がオープンしているにもかからわず、ライセンスの申請に必要な枠組みや新罰金制度が始まる時期などの具体的な項目が含まれていない
  • 電子タバコが紙タバコ禁煙策の一環として使われるのであれば、薬局でのみ売られるべきである
  • 刑罰的なアプローチでは若者を非難するのみ。好奇心から電子タバコを吸っている若者も多いということに注目し、麻薬などのドラッグ教育から教訓を得て依存症にならないような防止策が必要である。

が、政府は薬局で処方箋薬として売られると紙タバコを禁煙しようとする人の妨げになり、喫煙率が上昇すること。また、お隣の国オーストラリアでは若者が闇のマーケットのまがい物に依存するなど状況が更に悪化していることを理由に、薬局で処方箋としての販売はしない方針を固めています。


施策を発表したクリス・ヒプキンズ首相が

電子タバコは紙タバコの喫煙手段として手に入りやすく、なおかつ若者の手に渡らないようにバランスを取る必要がある

とコメントしているように、

今後も電子タバコは継続して小売店で販売されるようです。

 

   あとがき

夕方電車に乗ろうと駅で待っていたら、15歳前後の3人組の女の子たちが、さも当たり前のように電子タバコを吸っていた光景を見たことがあります。
それも、プラットフォームのベンチに座って三人で談話しながら、まるでリップスティックを塗るような感覚で電子タバコを吸っていたのです。

その女の子たちの髪型やメイクアップ、そして格好も一人一人見分けが付かないほど同じで、電子タバコも彼女らが追っている流行りのスタイルの一部化してしていました。
これは2年前のことです。

その女の子たちが現在電子タバコに依存し辞められない可能性は高く、またこれは社会現象のほんの一例に過ぎないと思います。

ニュージーランド政府はもっと早く手を打つべきでした。と言っても仕方がないので、今回発表された歯止め策が効果を出すことを願うばかりです。

Ngā mihi
wonderer

(参考)
https://www.rnz.co.nz/programmes/the-detail/story/2018893742/first-a-smoke-free-generation-next-a-vape-free-one
https://www.rnz.co.nz/news/national/496328/labour-s-panic-over-teen-vaping-shows-it-hasn-t-learned-from-other-addictive-substances-ash

ABOUTこの記事をかいた人

1997年にNZに渡航。以来住み心地がよく現在に至る。旅行、ホテル業界を経て現在は教育業界に従事。 趣味は、ガーデニング、アートと映画鑑賞、夏のキャンプ旅行。 パートナーと中学生娘とウェリントン在住。