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数週間前にようやく幕が降りた東京2020オリンピック。コロナウイルスの影響で異例続きでしたが、トランズジェンダーの選手が史上初めて競技したオリンピックとしても世界中の注目を集めました。
そのトランズジェンダーの選手はウエイトリフティングの選手でニュージーランド出身でした。
この編ではトランズジェンダーの選手がオリンピック出場に至るまでの経緯と、それからニュージーランドにおけるトランズジェンダーに対する姿勢を説明していきます。
NZ のトランズジェンダー選手オリンピック参加について
今回の東京2020オリンピックは、性転換して女性となったトランズジェンダーの選手が女性として競技に参加したことから、世界で様々な反響を呼びました。
このトランズジェンダーの女性は87Kg級のウェイト・リフティングの競技に参加、トライアルを三回ともに失敗してしまい残念ながら競技は僅か10分間で終わってしまいましたが、オリンピックに歴史的な瞬間を残したのでした。
このトランズジェンダーの女性の名前は、ローレル・ハバード。ニュージーランドで生まれ育ち現在43歳です。8年前、35歳の時に男性から女性に性転換しました。元々ウェイトリフティングの選手であったハバードは、2015年に国際オリンピック委員会International Olympic Committee(略称IOC)がトランズジェンダー選手の出場資格を認めたのに伴い、オリンピック競技の選考選手となりました。尚、出場資格を得るには、筋肉や骨格を増強する男性ホルモンの一種であるテストステロンのレベル値が一定以下であることが条件となっています。
ハバード選手は女性のウェイトリフターとして、2017年のワールドチャンピオンシップで銀、2019年のオセアニアチャンピオンシップで金メダルを獲得し、今回の東京オリンピックでもメダル候補に挙げられていました。
《 反対意見 》
これに対し、世間では女性のアスリートにフェアでないとして論争が起こりました。テストステロン値が低レベルであっても、元々男性として生まれ思春期を過ぎた身体は、骨格や筋肉の密度などの面で優位であると考えられているからです。
2019年にハバード選手がオセアニアチャンピオンシップでホスト国のサモアの選手を破り金メダルを取った時は、サモア側はニュージーランドはドーピングを許しているようなものであり、おかげで他の国がメダルを取れないと激しく非難しました。その後オーストラリアで開催された世界的な競技会では、オーストラリアはハバード選手の参加を拒もうとしたこともあります。
東京オリンピックの直前には、ベルギーのウェイトリフティング選手が、トランズジェンダーの容認運動には諸手を挙げて支持するが、他人を犠牲にするものではない。オリンピックで競技することは女性の選手に不公平であり冗談みたいな話だとコメントしました。
同様にオーストラリアでも、43歳の生物学的に男性で女性と認識する人を女性のカテゴリーの中で競技させることは、IOCの規則に不備があると、反対意見が唱えられました。
《 賛成意見 》
その一方で、トランズジェンダー擁護グループは、性転換するための使われるホルモンセラピーはアスリートの能力を低下させる事や、元々同じ男性、女性のカテゴリー内ですでに個々の間に身体の格差があるため、ハバード選手の競技が不公平を招くことはないと反論しました。
ニュージーランドの政府とスポーツ協会は、東京オリンピックにハバード選手の参加を支持。ケリン・スミスオリンピック委員会長も、オリンピックはハバード選手にとっても最高峰のスポーツのイベントであり、選手自身がIOCの選考基準に該当しておれば問題ないとして、ハバード選手の参加を認めました。この時、スミスオリンピック委員会会長は、次のように語っています。
スポーツにおいてジェンダー・アイデンティティーは非常に繊細で、人間の権利と競技においてフェア・プレイの間でバランスを取らなければならず容易ではない。(中省略)ニュージーランドのチームとして、あらゆる人に対して manaaki ( マオリ語で大事にする意) し、多様性を受け入れそして尊敬する強い文化があることを誇りに思う。
ハバード選手自身はオリンピックの後引退を宣言し、次のような声明文を発表しています。
私が最も望んでいるのは自分自身であることです。機会を与えられて現在自分自身でいられることに感謝するとともに、多くの人々から親切心と支持を受けたことを謙虚に受け止めています。
( 出典 : https://www.bbc.com/news/world-asia-57549653 )
ニュージーランドのトランスジェンダー
ニュージーランドには人口の1.2%の約57,000人近くのトランズジェンダーがいると言われています。
法律上で性転換するには、医師の判断後一定の手続きが必要です。年齢は18歳以上が対象です。
ジョージア・ベイヤー ( Georgina Beyer :1957 年生まれ )女史は、世界で初めてのカミングアウトしたトランズジェンダーの政治家として注目を浴びました。ベイヤー女史は売春婦に人権と平等な権利を与える為、世界で初めて売春業を合法化させた事でも有名です。
ニュージーランドは、世界でLGBT( レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランズジェンダー ) の権利が最も尊重されている国の枠に入ります。
1993年に性的嗜好や性同一性に対する差別を廃止する法律が制定され、と同時にゲイ、レズビアン、バイセクシャルとして軍隊に加入できるようになりました。
2010年国連がLGBT者の犯罪解除と差別廃止を世界に訴えた3年後の2013年、ニュージーランドは同性愛者による結婚を合法化しました。オセアニア地域では初めて、世界では13番目です。当時のの世論調査でも、同性愛者の結婚を高い率で支持する結果が示されていました。
現在では Gay Pride、Big Day Out などのLGBTイベントが開かれ毎年全国各地で賑わっています。
また学校や公共施設でもトイレを男性、女性と区別する代わりに男女共有のトイレが増えてきました。各高校でも生徒主体のLGBT啓蒙活動が盛んで、生徒はトレイニングを受けた学校のカウンセラーからカウンセリングを受けることができます。
そして、つい先週は性転換に関する法律上での手続きを簡素化してスピード化する法案が出されました。国会で可決されること間違いないと言われています。
このようNZはトランズジェンダーに対してかなり進んでいる国ですが、それでもまだ完全にとは言い切れません。一例として、現在トランズジェンダーやノンバイナリー(男女のどちらかの性別に当てはまらない、もしくは敢えて固定しない人) の権利は法律上守られていますが、性転換手術を受けておらず身体上は元のままの性の人々が当てはまるかどうかなど、明確にされてない部分があります。
NZ国内で性転換手術は可能ですが、費用が高い理由で受ける人は僅かで、多くのトランズジェンダーは本人の意思に添わず生まれたままの別の性の身体をしています。そのため法律上で性転換していていても、世間の目からはそうと取られず心理的に追い込まれるケースが多く、政府の早急な対策が必要とされています。
あとがき
ニュージーランドにおけるトランズジェンダーを初めとするLGBTについては、この記事だけで納まらない事柄が色々とあります。今後もLGBTについて書いていくつもりですが、この記事を読んでNZが国全体として真摯に対応している様を理解していただければと思います。
私は、ハバード選手のオリンピック出場を擁護したNZオリンピック委員会長のスミス 女史の、「ニュージーランドのチームとして、あらゆる人に対して manaaki ( マオリ語で大事にする意) し、多様性を受け入れ尊敬する強い文化を誇りに思う 」という言葉にNZ社会が言い表されていると思います。
先月はニューヨーク在住の宇多田ヒカルさんが自身がバイナリーであることを公に発表し話題になっていました。日本でも大いに議論してもらいたいと思います。
最後に、NZのダイバーシティについては次のような記事でも紹介しています。合わせてご覧下さい。
Ngā mihi
Wonderer